第42話 case 4-頭ポンポン
神業とは、死後に神となるための修行の事であり、世界の始まり神教の教えである。
故に、父が言った「安らかに眠れる」という言葉はその教えに反していたため、西中島の眼光が鋭くなったのである。
この時の央吾はまだ神業が何なのかを理解していなかった。
大晦日に近付くに連れ高梨家では普段の日常に戻っていったが、祖父と央吾だけは祖母の死をまだ受け止めきれずにいた。
央吾は冬休みに入り、父と母の仕事も年末年始の連休に入った頃からは家族総出で一日中内職をしていた。
央吾も宿題がひと段落すると、内職を手伝わなければいけなかった。
ヨータからの遊びの誘いも断り冬休みなのにほとんど遊ぶ時間はなかった。
それなのに、めぐみは一向に内職の手伝いをしない。
皆んなが内職している横でいつもの様にテレビにかじりついている。
レンタルして来たディズニー映画やアニメのビデオをひたすら…
「姉ちゃんも手伝ってよ」
テレビに夢中で聞こえていない。
「めぐみはいいのよ」
母は視線を手元から離す事なく、央吾に言った。
「宿題もしてないじゃん」
「だから、めぐみはいいの」
朝から宿題もせず、ずっと好きなテレビを見ている。めぐみだけが優遇されている…
央吾にはそうとしか考えられなかった。
ビデオをレンタルする時もそうだった。
央吾には決定権が無かった…めぐみが選んだ物を見るしかなかった。
央吾がテレビに気を取られ、内職の手が止まっていると、
「央吾、手を動かしなさい」
と母に怒られた…
そして、一年で央吾が一番憂鬱な日が来た。
大晦日である。
淡路島までは車で5時間程度。途中休憩を挟み夕食を食べてから総本山へ行くため、昼食は早めに食べ、12時頃に家を出発する。
「文一おじさんがもう着く頃だから、早く食べて」
高梨家には車が無いため、父の兄である文一の車に乗せてもらうことになっていた。
母に急かされた央吾はぼた餅を口に押し込んだ。
ぼた餅は央吾のリクエストである。
自分からリクエストしたものの、嬉しくはなかった。
本来であれば、ばあちゃんのぼた餅を食べるはずだったからである。
豆の煮詰め方も雑で塩も効いておらず、きな粉に砂糖がまぶされていない母のぼた餅は、ばあちゃんのぼた餅にはほど遠かった。
「ばあちゃんのぼた餅…食べたかったなぁ」
つい声に出してしまった。
ハッとした央吾だったが、キッチンにいた母には聞こえていない様だった。
頭を優しくポンポンとされたので振り向くと、隣に座って酒を飲んでいた祖父が優しい顔で小さく首を縦に振っていた。
「めぐみも央吾も、ご飯おわったら早く着替えて」
「何着ればいい?」
央吾は母に聞くと、
「いつもの白いトレーナーでも着て。ジャンパーもいるわよ」
いかにもお出掛け用のスカートとシャツ、赤いセーターにコートまで準備されていためぐみに対し、央吾は完全に普段着。2日前にヨータの家へ遊びに行った時の格好である。
しかもめぐみの服は全て新品だった。
めぐみは絵本を読んでいる。準備をしない。
しようともしない。
苛立った央吾は眉間にシワを寄せ、めぐみを見ていた。
「6年生になっても平仮名の絵本しか読めないくせに」
今度は母に聞こえていいと思って声に出したが、やはり聞こえていなかった。
祖父は少し悲しい顔だったが、また優しくポンポンとしてくれた。




