第43話 case 4-外食待ち
家族全員の着替えが終わる頃、ちょうど文一が高梨家へ到着した。
ピンポーン
玄関のチャイムを鳴らすと同時に扉を開け、文一が顔を出した。
「準備出来てるかぁ?」
「あぁ、直ぐ出るよ」
父が無愛想に返答した。
文一は従業員5、6人の小さな町工場を経営しており、以前は父もそこで働いていた。
父は営業、文一は現場。文一が造った物を、父が販売していたのである。
ようやく設備の減価償却も終わり、「これからは利益が出せる」そう考えていた父が営業から戻って来ると、工場には新しい機械が納入されている。そんな事が繰り返しあった様で、いい加減愛想が尽きた父は兄の文一と喧嘩し、その会社を辞めたらしい。
父曰く「あんな奴は経営者ではない」らしい。
「文一さんありがとう、トランク開けてもらえる?荷物入れたいから」
「はいはい」
文一は軽く返事をして、トランクを開ける。
荷物を積み終え、全員が車に乗り込んだ。
「頼むわ」
助手席に座った父が無愛想にボソっと言った。
後部座席に高梨家の残り4人が座ると、総本山へ向け出発した。
「昌子さんは?」
母が文一に尋ねた。
昌子とは文一の妻である。子供は竜平(高1)、大介(中2)の二人。
「別の車で先に行ってるよ」
「昌子さんに申し訳ないわねぇ」
母は形式上謝っている様に見えた。
「いやいや、運転は嫌いな方じゃないから、全然大丈夫だよ。それより、まだまだ時間かかるから寝てた方が良いよ」
文一は央吾にとっては優しいおじさんであったが、少し間の抜けた所もあるので母は苦手なタイプだろうと感じていた。
途中休憩を挟みながら、淡路島に入る手前で定食屋に到着した。
「じゃあちょっと待ってて、すぐ食べてくるから」
「???」
央吾は意味が分からなかったが、父と祖父は何の疑問も抱いてない様で、車から降りようとした央吾を止めた。
父が助手席から央吾にタッパーを渡して来た。
開けるとそこには、母のぼた餅がぎっしり入っていた。
「腹いっぱい食べとけよ」
父は母のぼた餅をむしゃむしゃ食べながら央吾に促したが、央吾は母のぼた餅を眺めているだけ…その隣で祖父はぼた餅をあてにお酒を飲んでいた。
母達が戻って来た。昼食にしては少し長い様に感じた。
「これに着替えなさい」
トランクを開け着替えのシャツを出してめぐみに渡していた。
めぐみは案の定、新品のシャツを汚して戻って来たのだ。ご飯を食べる時は汚さない事の方が珍しいぐらい。
これまでにも何度も汚しているはずなのに、母は怒らない。しかも新品のシャツなのに…
央吾はお菓子を食べた後の指をズボンで拭いただけで、めちゃくちゃ怒られた事がある。
この差は何なのか…
車に乗っためぐみは央吾の気も知らず、ハイテンションで喋り出す。
「お母さん、焼肉定食美味しかったね」
「…、そうね、」
央吾はぼた餅が一つも減っていないタッパーを母に渡す事で、何とかこの怒りを表現したかったが、母は受け取ったタッパーを鞄に入れただけだった。央吾のその小さな手は小刻みに震えていた…母にどうにか気付いて欲しかった…この敵意を…
「また来ようね、次は何食べよぉ〜かなぁ」
「…、…、…ソフトクリーム美味しかった?」
「うん!おいしかったぁ〜、いちごとどら焼もおいしかったねぇ〜」
「…、…うん、満足したなら良かったわ」
(焼肉定食だけでなく、デザートまで…しかもめぐみが好きな物ばかり…)
ここ最近の夕食はめぐみだけが豪華であった。
ハンバーグやとんかつ、ケーキやアイスも準備されていたが、央吾には無い…
無いどころか白ご飯に味噌汁、海苔の佃煮とたくあんが通常で、焼鮭かししゃもがあれば良い方だった…
車内では大満足のめぐみとは対照的に央吾はいつも以上に静かだった。
その後、淡路島に入り総本山に近付くにつれ、車の量も増え間近になると渋滞に巻き込まれた。
駐車場の手前には数百メートルの長い渋滞となっていた。
毎年の事ではあるが、央吾が嫌なのはこれからが本番であった…




