第41話 case 4-西中島という女
祖母が亡くなり、翌日にお通夜。そして葬儀。
央吾には皆んなが心の底から悲しんでいる様には見えなかった…
本当に悲しんでいるのは、祖父と央吾だけの様に思えた…
父や母は葬儀に参列した“世界の始まり神教”の人達に挨拶し、ずっと話しをしていた。
お通夜の日、西中島と言う女が高梨家を訪れて来た。央吾も何度か見た事がある人物である。ショートヘアで化粧が濃く眉毛が少し不自然に吊り上がっている。
いつもスーツを着ていて身なりは整えられており、60歳前後のその女はいつも笑顔で近付いて来る。
口角だけが上がっているその表情は全く信用出来ない笑顔だと央吾は感じていた。
“世界の始まり神教”の県支部の幹部で、央吾が住む地域の担当者である。
「西中島さん、わざわざ足を運んで頂きありがとうございます」
母は深く頭を下げて、西中島を時子の元へ案内した。
多くの信者達が時子を囲む様に座っていたが、西中島を見るなり全員が立ち上がり、母同様深く頭を下げた。
「この度はご愁傷様でした。もし宜しければ、弔辞を読ませて頂きたいのですが」
祖父と父の前に座った西中島はそう切り出した。
央吾には、悲しんでいるのか笑顔なのか分からなかった。
その表情から発せられた言葉には全く心がこもっておらず、単なる音にしか聞こえなかった。
「それは光栄です。母も喜ぶと思います。是非宜しくお願い致します」
父はさっきよりも深く頭を下げた。
そして翌日の葬儀では当然の様に西中島が祖母への弔辞を読んでいた。
祖母には友達が多かった。
花が好きで料理上手な祖母は、友達を家に招いては料理を振る舞っていた。
祖母には花の育て方を聞きに来る人がいたり、一緒に洋裁をする友達もいた。とても慕われていた。
なのになぜ西中島が弔辞を読んでいるのか、央吾には異様な光景に見えた。
西中島の顔からは祖母への尊敬や好意は感じ取れない。
ただ、紙に書いてある文字を読んでいるだけの作業にしか見えなかった。
葬儀を終え、央吾は親戚達が集まっている部屋でお酒を飲む祖父の横に座り、まだシクシクと泣いていた。
母は大量の香典を整理し終え、茶菓子を食べながらコーヒーを飲んでいた。
そこへ西中島がやって来た。
その場の空気が少しピリッと張り詰めた。
親戚一同が立ち上がったので央吾も仕方なく立ったが、めぐみは立ち上がらない。
立ち上がらないどころか振り向く事もせず、テレビを見ながら鼻をほじっていた。
「今日は本当に貴重な時間を割いて頂きありがとうございました。母も安らかに眠れると思います」
父が深々と頭を下げながらお礼を言った。
父の言葉を聞き、不気味な作り笑顔だった西中島の眼光が少し鋭くなった。
空気がもう一段階、張り詰めた。
「いえいえ、時子さんはこれから神業に入ります。大変な修行になると思います。微力ながら力になれればと思い、応援のつもりで弔辞を読ませて頂きました」
「ありがとうございます。母もこれからは修行の身、西中島さんのおかげで良い神となり、私達を見守ってくれると信じています」
母も深々と頭を下げながら返答した。
「さすが高梨さん。“神教”への理解が深いわね」
「ハハハハハッ、アハハハハハッ」
テレビを見ていためぐみが突然大きな声で笑い出した。
めぐみはいつもそうだ…周囲の事なんか関係ない。笑いたい時に笑い、不満があれば泣きわめき怒る…
感情の赴くまま、その感情を一切隠そうとはしない。
更にもう一段階、空気が張り詰めた。
母は半分だけめぐみの方へ視線をやったが、すぐ西中島の方に向き直し、何事もなかったかの様に、
「お布施でございます。どうかお納め下さい」
そう言うと分厚いのし袋を西中島へ手渡した。
すると西中島の鋭かった眼光はいつもの口角だけが上がっている信用出来ない笑顔へと変わった。
「それでは、また大晦日に。失礼致します」
「ありがとうございました」
西中島が部屋から出て行くと、皆緊張が解けたように座り込み、またペチャクチャとお喋りを再開した。
央吾は西中島が言った「また大晦日に」だけが感情が入った意味深な言葉に聞こえた。
母が西中島へ渡したのは、香典全額である。




