第37話 case 4-2階のテンショウサマ
央吾には怖いものがたくさんあった。
その中でも郷田の存在は言わずもがな…
そして、最近2階の部屋に置かれた仏壇の様な物である。
そのせいで央吾は一人で2階に上がれない。
家族皆んなが“テンショウサマ”と呼ぶそれは央吾にとって気持ちの悪い存在であった。
水曜日の晩、1人で留守番中郷田が家に上がり込んで来た時も2階に逃げる事が出来ず、玄関でチロをあやす郷田を見ながら泣き叫ぶ事しか出来なかった。
上側はお城の様な瓦屋根、その下の観音扉を開けると、中には和風シャンデリアの様な豪華な装飾がされており、ど真ん中にはキツネ顔の女性の絵。位の高そうな着物を身につけ後光が差していた。
女性の絵以外の物は瓦屋根から観音扉まで、そのほとんどが金色の代物であった。
それが置かれてからは毎朝、朝食の前に家族全員が集まりお祈りをする。
皆、それをゴンギョウと呼んでいる。
まずは東に向かって…その後西に…最後にテンショウサマに向かって…
お経?念仏?の様なものを唱えながら…
しかも正座である。
玄関を上りすぐ左にあるのが父と母の寝室、廊下を挟み右側に黒電話があり、廊下を真っ直ぐ進むとLDK。
その出入り口の手前左側に階段がある。
階段を上り右側が子供部屋、左側に行くとテンショウサマの部屋がある。
「めぐみ、央吾起きなさい。ゴンギョウの時間よ」
毎朝5時に母に起こされる。
「おはよう。眠たいけど、ゴンギョウ頑張ろうね」
祖母はいつも優しく声をかけてくれる。
「おはよう、今日もゴンギョウしなきゃダメ?眠たいよ」
まだまだ寝ていたい央吾は祖母にあまえた声で聞いてみた。
寝かせてあげたいけど…と言う様な優しくも困った顔の祖母であった。
「もうちょっと寝てても「ダメダメ、めぐみちゃんの為に頑張るぞ」
すぐに祖父が割って入ってきた。
祖父は書道教室の師範であり、祖母よりは厳しかった。
「おい、早くしろ。めぐみはまだ寝てるのか」
父はずいぶん厳しかった。
まだぐっすり寝ているめぐみを担ぎ上げテンショウサマの部屋に連れて行った。
テンショウサマの正面に父、母、めぐみ、その後ろに祖父母、そして最後方に央吾が座る。なぜかこれがお決まりだ。
央吾は訳も分からないまま、ゴンギョウの真似事をどうにかしていたが、めぐみはまだ母にもたれかかり寝ている。
起きたとしても、正座もせず母や後ろにいる祖父母に話しかけじっとしていない。
ゴンギョウをしない。
姉のためのゴンギョウ…央吾にとっては苦痛でしかなかった。
央吾はめぐみだけが甘やかされいる、めぐみだけが可愛がられている、そう感じていた。




