第36話 case 4-ブルー将軍
めぐみは耳を塞ぎ泣いているだけで、全く動けない。
「央吾どうしたの?」
電話の向こうの母の声を聞くだけで少し落ち着いた。
「郷田さんがまた来てて、ドアを開けようとしてるっ!今すぐ帰って来てっ!」
央吾は鼻をすすり、声を震わせながら早口で必死に母親に訴えた。
その5歳児の涙の訴えに対して母親は…
「鍵をかけてるから大丈夫よ、今大事な話をしてるから切るわね」
即切りだった…
目の前が真っ暗になった…
央吾は5歳にして絶望とは何か、その言葉を知る前に理解する事となった。
ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ
「ぁーあっ、あーぁっ」
勝手口を開けようとする音と姉の泣き声だけが聞こえて来る。
央吾は姉の元には行かず、玄関から応援をしてくれたチロに抱きつき泣いていた。
悟空の様にはなれないと悟った日でもあった…
何時間経っただろうか…いつの間にか勝手口の方からは姉の泣き声しか聞こえていなかった。
すると…玄関に近付く足音が聞こえてきた…央吾は強くチロにしがみつき扉を見つめる事しか出来なかった。
足音が玄関の前で止まると…
ジャラジャラ、ジャラジャラ
軽い金属と金属が当たる音が聞こえてきた。
それだけで央吾は父親だと分かり安心すると、しがみついていたチロも涎を垂らしソワソワし始めた。
「お、お父さん?」
その金属音は父親がキーケースから鍵を取り出す時の音だと分かっていたが、一応確認した。
「おぉ、央吾か」
父親確定。安心と共にまた涙が溢れてきた。
「どうしたんだ?こんな所で」
父は央吾の様子を気にしながらも、玄関に置いてあるチロのおやつを取り出しチロに食べさせた。
すぐ後ろから母親が顔を出し、
「ね、大丈夫だったでしょ」
その時の母親は、央吾にはドラゴンボールに出て来るレッドリボン軍のブルー将軍に見えた。
ドラゴンボールの放送が開始された頃からヨコばあばの家に週に一度集まり座談会と言うものをしているらしい。
この日を境にその座談会にめぐみも連れて行かれる様になり、央吾は毎週水曜日の晩は一人で留守番をする事になる…
毎週必ず郷田が現れる訳ではないが、いつ来るともしれない恐怖感はドラゴンボールだけでは拭うことが出来なかった。
央吾は5歳の時点で既に高梨家の中で疎外感と強い苦痛を感じていたと言う。
高梨家はこの頃から近所の人に誘われて宗教団体に入会していた。
その宗教団体が“世界の始まり神教”である。
央吾はいわゆる宗教二世だ。
後に分かる事だが、入会する際に1,000万円を献金していた。




