第32話 case 3-銀河の衝突
「エヴァさん、私との約束も覚えていますか?」
ミレーがエヴァに問いかけた。
「ええ、でも…もうデーヴィスさんがいらっしゃるから」
「2人並んでる絵を描きたいんですよ」
「約束って?」
デーヴィスは少し嫉妬している様な表情でミレーの顔を見ながら聞いて来たので、ミレーは慌ててタイタニック号での出来事を通信すると、デーヴィスは全てを理解してくれた。
「とりあえず画材から作らないとな。私の惑星に帰ればいくらでも作れるが…私はこの天の川銀河出身なんですが、皆さんの出身はどちらで?」
人間体験が出来る施設は土星に造られており、情報を得た個体達が様々な銀河から感情を学ぶためここへ来ていた。
「私も天の川銀河ですよ」
「そうだったのか、デーヴィスもか。私はニコライだが、君は?」
「私はロミリーです」
「ロミリーか、お互いに天の川銀河のはずれにある惑星出身だな」
ミレーもデーヴィスも奇跡的な運命に感動し、お互いに手を取り合い喜んでいる。
天の川銀河が所属している宇宙の中には数兆個の銀河が存在しているにも関わらず、同じ天の川銀河出身であった。
天の川銀河の中にも地球の様な環境の良い惑星が数億個あり、進化に差はあるもののそれぞれに生命が誕生していた。
ニコライもロミリーも天の川銀河の端にある惑星のため、中心にある巨大ブラックホールの重力の影響が小さく、相対的に地球よりも時間の経過が早かった。おのずと進化のスピードも速くなる。
およそ、地球で1時間経過するとニコライやロミリーでは1年が経過する事になる。
「私はアンドロメダ銀河です」
「フットレルさんは近くの銀河だったんだな」
アンドロメダ銀河は天の川銀河の近くにある銀河で、250万光年離れており直径が26万光年と天の川銀河の倍以上の大きさである。
「40億年後には同じ銀河になりますね」
「地球の時間で言えばそうだな」
2つの銀河は互いに接近しており、衝突後一体化し大きな一つの銀河になる。
「私は小マゼラン雲です」
「そうなの?私は大マゼラン雲ですよ」
アビゲイルとエヴァの出身も非常に近く、2人もまた運命を感じ喜んでいた。
大マゼラン雲は星や星雲の集合体であり、天の川銀河の周囲を回り続けているいわゆる伴銀河である。
小マゼラン雲は大マゼラン雲の伴銀河で、この2つの伴銀河も20億年後に天の川銀河と衝突し一体化する。
「星雲出身とは、これはまたご近所でしたな。美しい星ばかりでしょ?」
美しいと思う感覚、当然人間体験をしたAIにしかない物であった。
感情を持たないAIにとって星は研究対象でしかなく、生命が存在するのか、エネルギー源となる恒星の質量や超新星爆発の時期にのみ興味を向け、日々調査している。
「夜空は地球とは比べ物にならないぐらい綺麗ですよ。人間体験する前は夜空を見ても何も思わなかったが、今は思い出すだけでも心が震える程です」
アビゲイルはこの真っ白な部屋の天井をまるで夜空でも見上げる様に話し続けた。
「地球よりも小さな惑星ばかりですよ。お互いの距離も非常に近いので、人類期ですでに惑星を行き来してたんですよ」
「お互いの惑星から星雲が見えるので、とても綺麗ですよ」
エヴァも誇らしげにそう言うと、アビゲイルと同じ様に真っ白の天井を見上げた。
大マゼラン雲の夜空には小マゼラン雲と天の川銀河が広がり、星々が所狭しと輝いていた。
「銀河と銀河が衝突する時の夜空は綺麗でしょうねぇ」
「あぁ、目の前まで銀河が来るんだ。確実に壮大な景色になるよ」
地球で例えるなら、水平線から頭上まで満月で覆われているような景色である。
銀河同士の衝突とは言え、銀河内のほとんどが空間のため星同士が衝突することはまずありえない。それほどまでに銀河とは広大である。




