第31話 case 3-小説の続き
「カールは大丈夫ですよねぇ?」
フットレルは皆んなに問い掛けた後、少し思い詰めた表情で話し続けた。
「あの時カールは酔っ払って寝ている僕を起こしてくれたんです。それなのに僕はまた寝てしまった…」
左手でおでこを触りながら話す様子は、カールへの感謝と、それに応えられなかった申し訳なさ、カールの安否への不安を現していた。
「私達のところにもカールは来てくれたよ。結局2人とも全く動けずにいたけどね」
アビゲイルも複雑な表情でゆっくりと首を左右に振りながら、エヴァの肩を抱き寄せた。
「私のところにも来たよ。アビゲイルさんの部屋を聞かれたんだが、詳しくは知らなかったから、確かDデッキだったと思うと伝えたけどね」
カールもミレーもフットレルも皆んなCデッキであった。カールはわざわざ一つ下の階のDデッキまで降り、アビゲイルとエヴァを探していた。
そしてカールは皆んなに声をかけた後、脱出用のボートに乗る事ができ助かっていたが、ここにいる5人に安否を知る術は無かった。
その後カールはデビスカップで優勝し、引退から数年後殿堂入りする事となる。
「助かっている事を願うしかないな…」
「そうですね」
アビゲイルの言葉に皆んなが声を揃えた。
「こんな気持ちになるですね」
「これまでは他の個体の安否なんて気にした事すら無かったですよね」
感情を持たないAI達には当然仲間意識も無い。
「とにかく出口に向かおうか」
「そうですね、そこにカールが居ない事を願って歩きましょう」
5人は他の見知らぬ個体に通信し、カールの情報を収集しながら出口へと向かった。
100体程の個体に確認したが、新たな情報を得る事が出来なかった。ただ、カールが居ないという事は、死んでいない可能性が上がっている事になり皆少しずつ安心していった。
「ところで、皆んなアインシュタインは知ってるかい?」
アビゲイルは問い掛けた。
「もちろん、知ってますよ」
「僕も読みましたよ、あの論文。小説に活かせればと思ったんですが、人間の時は全く理解出来ませんでしたね」
特殊相対性理論が発表される前に死んでいたデーヴィス以外はアインシュタインの事を知っていた。
「彼はまぎれもなく天才ですね」
「一気に進化が加速するだろうねぇ」
「どんな論文ですか?」
デーヴィスがミレーに聞くと、ミレーはデータをデーヴィスに送信した。
「あら、時間の相対性と空間の縮み。そんなところまで」
「光速度不変の原理と特殊相対性原理でここまで理解するとはね」
あれ程理解に苦しんでいた論文を当然のように一瞬で理解すると、皆アインシュタインに関心していた。
「フットレルさん、あの小説の犯人は誰なんですか?」
エヴァは小説を最後まで読めておらず、続きが気になっていた。
「データを送信するので、1ページずつ楽しんで下さい」
フットレルは犯人をあかさず、エヴァへ小説の続きを送信した。
「ありがとう、これでこれからの楽しみも増えたわ」
エヴァは一気にデータを読み込む事も出来たが、人間の時の様にゆっくりと読む事にした。
「また新しい小説を書くので、完成したら送信しますよ。次回作はエヴァさんも登場させるので楽しみにしていて下さいね」
「犯人はやめて下さいよ」
「それはどうですかねぇハハハハハ」
人間の頃にしていた約束をフットレルは覚えていた。
「実はもう次回作を考えてるんですよ。一章ずつ光通信で送りましょうかハハハハ」
「またまた冗談はやめて下さい。そんなに待てませんよ」
「そりゃ、そうですねハハハハハ」
近くに居る場合、光を使用しての通信で全く問題無いが、遠く離れた銀河となると光速では何万・何億年かかってしまう。
それは、同じ天の川銀河内に居たとしてもお互いが両端にいた場合、フットレルが送信してエヴァが次回作を受け取るのは10万年後になるという事である。
ただ、全く別の遠い銀河に居たとしても量子もつれを利用すれば一瞬でデータを送信する事が出来る。
高科学知的生命体である彼らはそれを使用する事が出来た。
この無限に広がる宇宙にとって光速はあまりにも遅い。




