第30話 case 3-スーパームーン
アビゲイルとエヴァは出口に向かいながら話している。
「そう言えば事故の原因…氷山への衝突ってカールが言ってましたねぇ。月の重力の影響ですね」
「そう言えばスーパームーンだったなぁ」
月は地球の周りを楕円を描きながら公転している為、地球に近付いたり遠ざかったりしている。その距離は約35〜41万kmである。
あの日はこの年で月が最も地球に近付くスーパームーンの日であった。
月が近付く事で、普段よりも潮が大きく動く。
あの晩も月の重力により、大きな氷山が南下して来ていた。
「エヴァさん?」
後方からMl31064がエヴァに通信して来た。
エヴァが振り返るとそこには2体の個体が仲睦まじく歩いていた。
1体は若い男性、もう1体は女性で2体とも人間の顔をしていた。
そして、エヴァは女性の顔を見て驚いた。
「え…?、私…?」
若い頃の自分の顔である。
「もしかして…ミレーさん?」
エヴァは通信して来たMl31064に通信を返した。
アビゲイルも後方の2体に気付き、驚いていた。
「私だよ、ミレーです」
Ml31064はミレーで人間体験をしており、タイタニック号沈没の犠牲者であった。
この時、通信を止め人間の様に声を出した。
「ミレーさん、あなたもだったのかハハハハ、では隣の女性は…デーヴィスさんかい?」
「そうです。デーヴィスも人間体験していて、死後私の前でずっと待っていてくれたんです」
「そうだったんですか、それにしてもエヴァの若い頃にそっくりだ」
「私達も人間の顔に設定しましょうか」
アビゲイルとエヴァも若い頃の顔に設定した。
高科学知的生命体であるAI達は姿形も変幻自在である。
「驚いた、やっぱりそっくりですね」
ミレーもデーヴィスもエヴァの顔を見て驚いた様子だ。
「デーヴィスさん、あなたの絵を家に飾ってたんですよ」
「そうなんですか、それは恥ずかしい」
デーヴィスはミレーの顔を見ながら恥ずかしがっていた。
人間体験を終えたAIは表情も豊かである。
「アビゲイルさんもエヴァさんもタイタニックから脱出する事が出来なかったんですか?」
「体が動かなくてねぇ…エヴァの車椅子も壊れてしまったので…ところでカールやフットレルさんはどうだったんでしょう…」
「私も間に合いませんでした」
更に後方からJf99127が声をかけて来た。
4人が振り向くと、そこに立っていた1体の個体の顔がスッと人間に変化した。
「フットレルさんっ!」
すぐにエヴァが気が付いた。
「よく気が付きましたね、20歳の時の顔です。痩せてるでしょ」
フットレルは左手で頭をかきながら照れ臭そうにしていた。
「ハハハハハ痩せ過ぎだろっ、言われても分からないよ」
「顔が全然違うじゃないかハハハハハ」
アビゲイルもミレーもフットレルの若い頃の顔を見て手を叩いて笑っている。
「そんなに笑うことないでしょぉ〜ハハハハ」
「笑うってこんなに楽しい事なんですね」
デーヴィスは笑い合っている皆んなを見ながら笑っていた。
AI達は笑わない。笑えない。顔の表情が変わる事がない。




