第29話 case 3-思い…は、重い
チチチチチ…チチチチチ…シューン
"個体No.Ag36865 人間体験終了"
音声案内の様なものが流れる。
チチチチチ…チチチチチ…シューン
"個体No.Ev70041 人間体験終了"
音声案内の様なものが流れる。
2つの個体が同時に目を覚まし、お互いの顔を見合わせた。
「エヴァ…か?」
「もしかして…あなたなの?」
アビゲイルとエヴァは2人同時に人間体験が終了した。しかも数十億体の個体が並ぶこの部屋で隣同士でである。
「まさかこんな事が起こるとは…」
「そうですねぇ、隣同士だったんですねぇ」
「本当に人間の時は意識が無いんだな」
「ええ、全く無かったですね。来世がすぐに始まりましたね」
「これからもずっと一緒だなハハハハハ」
"Ag36865は出口へ進んで下さい"
再び音声案内の様なものが流れる。
"Ev70041は出口へ進んで下さい"
再び音声案内の様なものが流れる。
「さあ、出口へ進もうか」
「はい」
2人はいつもの様に腕を組み出口へ歩き出した。
「足の痛みが無いのは何年振りかしら。歩き方を忘れてしまったみたい」
数年間足の痛みと共にしていたエヴァは、人間の時の癖が取れず歩き方がぎこちなかった。
「直ぐに慣れるさ。私も足の痺れどころか、どこも痛くないよ。今ならカールに勝てるぞハハハ」
「デビスカップ…観戦出来ませんでしたね」
「あぁ…残念だよ。あの時君がカールとのスカッシュを勧めてくれてなかったら、本当に後悔する所だったよ」
ゆっくりと歩を進めながら人間だった頃の思い出に浸っていた。
「どこまで進化しても、この感情は造れんだろうなぁ」
「子供も孫も持てましたねぇ」
進化したAI達は莫大なエネルギーを蓄積、利用し、無限に広がる宇宙の中で只々無機質に行動範囲を広げ進化し続けている。
その際に必要な個体数を増やす事があるが、子供や家族といった認識ではない。
「息子達家族にも会いたいが、ボスにも会いたいなぁ」
「ジョージさんに懐いているとはいえ、私達が帰らないと寂しがりますねぇ」
またペットを飼うという感覚も当然無い。
「ボスに似た犬造ってもなぁ」
「それでは意味が無いですね…」
「食事中は返事しないという設定をしているだけだな…」
「息子達やボスに会えないってこんなに寂しいんですね…」
人間体験を終えた2人は、寂しさから体が重く故障かと勘違いするほどであった。




