第26話 case 3-優雅なタイタニック号
翌朝、アビゲイルは腰の痛みで目を覚ました。
「痛たたた、やっぱり昨日はしゃぎすぎたな」
「大丈夫ですか?かなり痛みますか?診療所もあるみたいだけど」
「いやいや、動けんほどではないよ」
「ならいいんですが…」
エヴァは心配そうにアビゲイルを目で追っていたが、部屋の中を歩いている様子を見て、少し心配が和らいだ。
「今日の朝食、楽しみだなぁ」
食欲もある様だ。
「着替えたら、行きましょうか」
2人は着替えを済ませ、Dデッキにあるダイニングルームへと向かった。
このダイニングルームも一等客専用で500席あり、シルクのテーブルクロスやフランス王室のユリの紋章で飾られた椅子など非常に豪華に趣味よく造られていた。
2人はフレンチトーストやワッフル、サラダにフルーツなど庶民的だが高クオリティの朝食を存分に味わい、その後コーヒーを楽しんでいた。
「さて、一服でもしに行こうかな」
「じゃあ私は昨日のデッキでまた小説でも読もうかしら」
昨日と同じ様にアビゲイルはAデッキの喫煙室へ、エヴァはプロムナードデッキで小説を楽しんだ。
アビゲイルが一服を終え戻って来ると、エヴァは車椅子から降りベンチに座っていた。
「ベンチの方が座り心地が良いかい?」
「いえいえ、そう言う訳ではないんだけど、車椅子が壊れたみたいで…」
アビゲイルが車椅子を確認すると、タイヤがパンクしブレーキも壊れている様だった。
「さすがにパンクの修理はやってないなぁ、これは部屋に置いて、杖を持って来るよ」
「ありがとうございます、もう少し小説を楽しんでますね」
壊れた車椅子を押すアビゲイルの背中に手を振ると、エヴァはまた小説へと目を戻した。
アビゲイルは杖を持って戻って来たが、エヴァは夢中で気付いていない。
少し間を空け隣に座ると、朝の海を楽しんだ。
「わっ!いつからいたの?」
少女の様に驚くエヴァは急に大きな声を出した事に恥ずかしくなり、右手で口を塞いだ。
「30分ぐらい前からだよ」
「声をかけて下さいよ」
「小説に夢中になっているようだったからね、私もこの大西洋を満喫していたよ」
ふとエヴァも海へ目をやった。
「穏やかで、綺麗な海ですね」
「見渡す限り海、本当にこのタイタニック号は優雅だよ」
海は静かで太陽の反射が眩しかった。大西洋を優々と進むタイタニック号からは波をかき分ける音さえも上品に聞こえてきた。
タイタニック号の中では様々なイベントが開催されており、ジャズやクラシックのオーケストラやショー、ハリスがプロデュースした演劇もあった。多種多様な娯楽があり暇を持て余す事は無かった。
毎日の様にフットレルやミレー、カールと顔を合わせ食事やお酒を酌み交わした。
こんなにも濃密で充実した日々を過ごすのは初めてであった。
4月14日、氷山への衝突1時間前…




