第24話 case 3-エヴァからの提案
アビゲイルとエヴァはお互いに憧れの人との会話を思う存分楽しんだ。
フットレルはエヴァを主人公にした小説を、ミレーはエヴァをモデルに絵を描くと約束をしていた。
そして、カフェに来て1時間程が経った時、ミレーが提案してきた。
「こうして今、初対面の私達が一つのテーブルを囲んでいるのも何かの縁、今夜一緒にディナーでもどうですか?」
アビゲイルとエヴァはもちろん、全員が承諾し、18時にBデッキのアラカルト・レストランで再度集合することとなった。
2人になったアビゲイルとエヴァはそれまでの時間、タイタニック号の中を見て回る事にした。
装飾の豪華さにも特にこだわって設計されていたタイタニック号にはジムやスカッシュコート、プールまでもが設置されていた。
エヴァの車椅子を押しながら、ふとスカッシュコートの中を見ると非常に上手な青年2人が楽しんでいた。
「あの2人上手いなぁ」
学生時代にテニスをやっていたアビゲイルは遊びの様にやっているプレイでもハイレベルである事が直ぐに分かった。
「カールだっ!」
メガネをかけた青年がプロテニスプレーヤーのカール・ベアであった。そして、その相手をしているのが前回の大会でカールが負けたウィリアムズである。
興奮したアビゲイルは車椅子を押しながら慌てて近付き、話しかけた。
「カール!カール!私は君の大ファンだ!」
その声に反応し、カールはプレイを続けながらも笑顔で応答した。
それはとても無防備で無邪気な笑顔であった。
プレイを終えたカールはベンチにかけてあったタオルで汗を拭きながら近付いて来た。
アビゲイルは目がおかしくなってしまったかの様に感じた。それは、身長の高い男が近付いて来ているはずなのに、顔がとても小さいままで、これまで経験した事がない遠近感のバランスが崩れたように感じたからである。
ベージュのスーツに茶色の革靴、高い鼻にメガネをかけ、今スカッシュを終えたばかりとは
思えない程乱れの無いヘアースタイル。
彼以上の色男はこの世にはいないと感じる程の爽やかさであった。
カールはアビゲイルの前に立つと、手を差し伸べ握手を求めて来た。
「ファーストネームで呼ばれたのは、親や友人以外では初めてだよハハハハ」
「会えて光栄だよ。今度のデビスカップは観に行くから、絶対勝ってくれよ」
「ええ、もちろん。こないだの大会ではあいつに負けてしまいましたからね」
カールは向こうの方でベンチに座っているウィリアムズを指差しながら、はにかんだ。
「あなた、カールにスカッシュのお相手してもらったら?一度でいいからカールとテニスをやってみたいって言ってたじゃない」




