第22話 case 3-偶然と偶然
数ページを読み、本を閉じるとエヴァは犯人が誰なのか青い海をうっとり眺めながら推理していた。
「その本、面白いですか?」
隣のベンチに座っていた40歳前後で小太りの男が話しかけて来た。
「ええ、とっても」
エヴァは少し戸惑ったが微笑みながら一言だけ返した。
すると男は続けて質問を投げかけて来た。
「犯人、分かりましたか?」
「え?う〜ん、まだ半分も読んでないから…でも今怪しいのは赤いペンダントの秘書か赤いネクタイの支配人かしら…何となく赤がポイントになりそうね。人間関係や動機も分からないしまだまだ登場人物も出て来そうだから何とも言えないわね。私はね彼のデビュー作からずっと読んでるの、毎回面白いのに、毎回前作を超える面白さでしょ。しかも読む度に新しい気付きがあってね、この時のこのセリフはこんな意味があったんだ、とかね10回読んでもいつも新鮮な気持ちで読めるわ。あなたもフットレルが好きなの?」
フットレルを語り出すといつもより饒舌になり話が止まらないエヴァであった。
あまりのエヴァの情熱振りに男は呆気に取られ、口が開いたままになっていた。
「エヴァ!凄いぞぉ〜、奇跡が起きたっ!」
アビゲイルが両手を上げ走って来た。
「あら、どうしたんですか?そんなに慌てて」
「ミレーだよっ!ミレー!ミレーが居たんだよ!」
Aデッキの喫煙室は一等客専用であり、豪華なシャンデリア等まるでオランダの城内の様な造りであった。
そして、そこに飾られていたのがミレーの絵画。それを見つけたアビゲイルは当然その絵を見ながらタバコを吸っていた。
「同じテーブルでタバコを吸っていたんだっ!絵から目を離した時に、目が合ったのがミレーだったんだよっ!」
「そうですかぁ、それは思いもよらない出会いがありましたねぇ」
「思わず握手してもらったよ」
「良かったですねぇ」
興奮を抑えきれないといった感じのアビゲイルであったが、ふとエヴァの隣に座っている男に気がついた。
「そちらの方は?」
「あ、えーとぉ」
どう説明しようかとエヴァが考えていると、
「すみません、自己紹介がまだでした…私はジャック・フットレルと申します。奥様が楽しそうに小説を読んでいるのを見てつい話しかけてしまいました」
立ち上がり自己紹介をした男の言葉を聞いて、2人は固まった…ゆっくりお互いに目を合わせたまま数秒間考えた後、またゆっくり男の方を見た。
「フットレルって…、…、もしかして…、…この小説の…?…、…、…、まさかねぇ…」
それはないだろうといった表情で、苦笑いの2人であったが、男はその2人の感情を汲み取ったかの様に話し出した。
「そうですよね、信じられないですよね、でもその小説を書いたのが僕なんです」
少し照れ臭そうに、左手で頭の後ろをかいていた。
「フットレル、先にカフェに行ってるよ」
通りかかった男が、その男に話しかけた。
「ハリスさん、僕もすぐに行きますよ」
アビゲイルが何かに気付き、男に質問した。
「ハリスさん?ってもしかして、演劇プロデューサーのヘンリー・ハリスの事かい?」
「ええ、そうですよ。今度僕の小説が演劇になるんですよ。ハリスさん有名ですよね、もし宜しければ一緒にカフェに行きませんか?奥様のお話ももう少し聞きたいので」
この奇跡の様な出会いの連続に言葉が出ない2人であった。
エヴァは特にフットレルの自己紹介以降、放心状態が続いていた。
アビゲイルはエヴァを想い、この一生に一度の機会を棒に振ってはいけないとフットレルとカフェに行く事にした。
「是非、一緒に行きましょう」




