第21話 case 3-乗船
「次の方どうぞー」
係員に呼ばれ、乗船手続きの順番が来たアビゲイルとエヴァは乗船することとなった。
「ニューヨークの港で、ジアナが待ってるから!楽しんで来てねぇーっ!」
カミラがそう言うと、腕を組んで乗船している2人は同時に振り向き、同じリズムで大きくゆっくりと手を振った。
甲板から港を見下ろすと、人の頭ばかりが見え、乗船する前より一層人の多さが理解出来た。それでも、自分達に向かって手を振ってくれているカミラはすぐに見つける事が出来た。
「見送りありがとうーっっ!楽しんで来るよー!」
2人の声はカミラには聞こえていない。
でもカミラはいつまでも、見えなくなるまで2人のリズムに合わせ手を振っていた。それは、あの日行けなかった償いをするようであった。
タイタニック号の中へ入った2人は驚きの連続であった。
当時はスピード重視の造船技術競争が白熱していたが、タイタニック号は設備の豪華さに重点を置き設計されていた。
「豪華絢爛とはこの事だな」
「あっ、あれを見て下さい」
エヴァが指をさした方向にはタイタニック号の象徴でもある大階段があった。
「これがあの大階段かぁ〜」
「そうですねぇ、新聞で見るよりも豪華で綺麗ですねぇ」
「この天使像も優雅だなぁ〜」
この大階段で一等客室を行き来する事が出来た。2人が宿泊する部屋は、贅の限りを尽くされた一等客室の中でもスイートルームと呼ばれたBデッキ。
ではなく、それよりも下の階にあるDデッキにある。
「せっかくだから、この大階段で行きましょう」
エヴァは車椅子から降り、アビゲイルと腕を組みDデッキへ向かった。
スイートルームとは違うものの室内は広く、装飾にも西洋の様式が使われており、室内からは海を見る事も出来た。
「スイートルームは新聞で見たが、ここも一等客室だけあって、豪華だなぁ」
「そうですねぇ、もう海岸があんなに小さく見えますよ」
2人は室内の窓から、寄り添う様に外の景色を眺めていた。
「Aデッキにカフェがあるみたいだから、行ってみましょうか」
「それは良い、美味しいコーヒーでも飲みに行こうかぁ」
エヴァを車椅子に乗せ、エレベーターでAデッキへ向かった。
エレベーターは3基あったが、大勢の人が待っており大混雑であった。
「車椅子だと迷惑かしら」
「そんな事はないよ、時間はたっぷりあるんだ、ゆっくりと空くまで待とう」
一等客室だけでも800人以上が乗船しており、ようやく2人がエレベーターに乗り込めたのはそれから20分程経ってからだった。
Aデッキまで来たアビゲイルはカフェとは違う方向に車椅子を押し始めた。
「あなた、カフェは逆方向みたいよ」
「ごめんごめん、あっちに喫煙室があるみたいだから先に一服していいかなぁ?」
「ええ、いいですよ。私はそこのデッキで小説読んでますから、ゆっくりしてきて下さい」
Aデッキにはプロムナードデッキと呼ばれる大きな廊下が外にある。そこにはベンチが多数並べられており、風に当たりながら優雅に景色を眺める事が出来た。
アビゲイルは喫煙室へ、エヴァはデッキでアビゲイルからのプレゼントである、フットレルの推理小説を読んでいた。




