第15話 case 3-カミラの妻アリア
そして、週末。
ロンドンのカミラ家では…
アリアはいつになく上機嫌になっていた。
それは、なかなか予約の取れないフランス料理店の予約が決まったからだ。
「カミラ、フランソワの予約がやっっと取れたわっ。
1年も待ち続けたの、絶っ対に行くわよ」
「凄いなぁ〜、それは絶対行こう!1年で取れただけでも早い方だよっ」
「じゃあ、今日のボストン行きはキャンセルね。何を着て行こうかしらぁ〜」
アリアは鼻歌まじりにクローゼットに向かって行った。
「?…ん?…ちょっと待って」
カミラは一瞬考えた後、アリアを追いかけた。
「フランソワの予約っていつ?」
「今晩よ、楽しみぃ〜、♫オ〜シャンゼリゼェ〜♫
オ〜シャンゼリェ〜♫」
ノリノリのアリアは上機嫌の最高潮の様であったが、カミラの一言で一変する事になる。
「残念だけど今日は無理だよ、ボストンに行く約束じゃないか。父さんの退職祝いだよ」
急に眉間にシワを寄せたアリアは意味が分からないと言わんばかりに両手を左右に大きく広げて怒り狂う。
「ボストンへは来週でも、再来週でも、いつでも行けるわっ、でもフランソワは違う。今日を逃すとまた1年以上待つ事になるわっ。さっきあなたも絶対行こうって言ったじゃない!!嘘をついたのっ!?私に嘘をついたのっ!?」
めちゃくちゃに早口で、カミラに喋る隙を与えない。
「シャーロットに自慢してやるのよっ、いつもいつも高級な服!バック!指輪!見せびらかすように自慢して来るじゃないっ!フランソワはわざわざアメリカからでも食べに来るぐらい有名な店よっ、シャーロットも行った事がないはずっ、だ・か・ら、今日のボストンはキャンセルよっ!アイラとアイビーが熱でも出したとか言って!早く電話してっ」
怒りと早口からか、アリアの顎は少しずつ上がり、カミラには鋭利な刃物になっていく様に見えた。
「今日のボストン行きは何ヶ月も前から決まってた事じゃないか、しかも子供が熱を出したって?嘘は良くないだろ」
「そうよっ!嘘は良くないっ!あなたはフランソワに絶対行くと言った!あなたは嘘をつくの⁈」
カミラは呆れ顔で大きなため息を吐くと、冷静に話し出した。
「こんな事で言い争っている時間は無い。飛行機の時間は決まっているんだ。さあ準備して。出発するぞ」
「嫌よっ、行かないっ、フランソワに
行くのっ!」
カミラはアリアを無視し、子供部屋から顔を出して2人の様子をうかがっていた子供達に、早く準備するよう促した。
すると姉のアイラが近付いて来た。
目線を合わす事なく、そして少し申し訳なさそうに呟いた。
「私もフランス料理の方が良いな…おばあちゃんのサーモンのクリーム煮…苦手だから…」
「何だよアイラ、お前まで…アイビーはどうなんだ?おじいちゃんとおばあちゃんに会いたいだろ?」
弟のアイビーも部屋から出て来ると、もじもじしながら呟いた。
「僕はボスが苦手…すぐ吠えるし、怖いよ…」
カミラは全身の力が抜け、目の焦点が合わなくなる程ショックだった…
「もういいよ、分かったよ…1人で行くから」
「駄目よ、私が行きたくないって言ったみたいじゃない。行きたくない訳じゃないの、日程を変更しましょうって言ってるの」
「…、…、…」
カミラは言葉を失った…
これまでのアビゲイルやエヴァへのプレゼントは、アリアが義父母を気遣い送った物では当然ない。カミラが買って来た物を、あたかも自分が買って来たかの様にアリアが送っていた物だった。




