第14話 case 3-爆発に反応するボス
アビゲイルが家に着くと、いつもボスが真っ先に出迎えてくれる。
アビゲイルはボスと目線を合わすようにしゃがみ込み鞄と買って来た花束を置くと、いつものようにボスの両頬を撫で回し笑顔になっていた。
「ヴォス、ヴォス、ヴォス」
ボスはお疲れ様と言っているかのように、アビゲイルの顔に頭を何度も何度も擦り付けた。
「あなた、おかえりなさい」
エヴァがゆっくり玄関先まで出て来ると、
アビゲイルは立ち上がり花束を渡した。
「長い間支えてくれてありがとう。これからは2人の時間を楽しもう」
エヴァは涙ぐみながら花束を受け取った。
「あなたこそ、長い間お疲れ様でした。明日からはゆっくり出来ますね」
大きな花束を抱きしめながらエヴァが言うと、アビゲイルは一歩近付いた。
腕を組みゆっくりとリビングへ向かう2人のペースに合わせ、ボスは尻尾を振りながら着いていった。
リビングのテーブルには綺麗なテーブルクロスが敷かれ副菜とビールグラスがセットされている。
「そうか、今日はステーキだったな」
「そうですよ、上等なお肉ですよぉ」
そう言うとエヴァはキッチンに向かいステーキの準備を始めた。
いつもの様に2人と1匹での夕飯が始まり、ボスにも上等なお肉が振る舞われた。
「ボス、美味しいかい?」
ボスは食事中は答えない。
「そうだそうだ、実はジョージからプレゼントを貰ってね、ほら」
アビゲイルは今にも爆発しそうなニッコニコの笑顔でデビスカップのチケットを取り出した。
その笑顔は伝染し、何かも分からないままエヴァもニッコニコの笑顔になっていた。
「まあ凄いっ!カールも出場するの?この大会」
「そうなんだよっ!カールがいるんだよっ!」
アビゲイルの笑顔が爆発した。
「ヴォス!ヴォス、ヴォス」
笑顔の爆発に、ボスが反応した。
「それは楽しみですね、ジョージさんには今度お礼をしないとね」
「あぁ、家に招待する約束をしたんだ、エヴァも久しぶりだろ」
「それは良いですね、何を作ろうかしら」
「あと、これは私から」
アビゲイルは赤いリボンを飾りつけてある一冊の本をエヴァに渡した。
「まあ!これはもしかして、フットレルの新作っ⁈」
「ヴォス!ヴォスヴォス!」
エヴァの笑顔の爆発にもボスは反応した。
フットレルはアメリカだけでなく、ヨーロッパでも有名な推理小説家である。
そしてエヴァの日課は、特殊相対性理論を読みながら寝ているアビゲイルの横でフットレルの小説を読む事であった。
「まあ嬉しいっ、フットレルの小説は何回読んでも楽しいのよぉ」
「喜んでくれて良かったよ。私が読んでいる特殊相対性理論は未だに理解できんがなぁハハハ」
2人の会話はいつもよりも一段と弾み、アビゲイルの退職祝いの夜は過ぎていった。
「今週末には皆んな帰ってくるからなぁ、賑やかになるぞ」
「そうね、久しぶりですね、アイビーにアイラ、
サディも大きくなってますかねぇ。サーモンのクリーム煮作らなきゃ」
「それは皆んな喜ぶぞぉ、楽しみだなぁ」
週末はアビゲイルの退職祝いのため、カミラとジアナの家族達がいっせいに集まる事になっていた。
ミラー家が全員揃うのは、数年ぶりの事であった。




