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人間体験  作者: hi07


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152/183

第151話 case 5-多忙な日々に…

“ブラックホールは爆発する”と題した論文は瞬く間に話題となり、同時に“ホーキング放射”も注目を浴びる事となった。


天才スティーヴン・ホーキングの名が世に知れ渡ったのである。


一方、ALSの進行が医者の予想に反しかなり遅く、2年の余命宣告から10年が経とうとしていた。

とは言え少しずつ、そして着実にスティーヴンの体を蝕んでいった。


それはジェーンの負担が確実に増加していく事を意味している。

そしてジェーンの神に祈る回数は徐々に増加していった。


ジェーンは生まれながらにして、クリスチャンだ。


教会に行きキリストに祈る事で、ギザギザに傷んだ心を丸く整え自分を保っていた。

家事に育児そして、スティーヴンの介助、空いた時間があれば物理学の勉強。


スティーヴンが有名になればなるほど、天才物理学者の良き妻としての重圧と戦っていたのだ。


そつなく家事をこなし、子供たちとも公園で遊びつつ、主人の介助にも手を抜かない。

周りから見れば、ジェーンはとても献身的で理想的な妻であり、母であったはずだ。


“車椅子の天才物理学者”として超が着く有名人となったスティーヴンは、学会や国際会議等への出席も急増した。

それに比例、いや2乗する様にジェーンは多忙を極めた。



ある日の休日、


いつもの様にスーパーオキシド・ジスムターゼ酵素たっぷりのスムージーと朝食を作り、食べ終えると片付け、家の掃除、子供たちの宿題を見ながらスティーヴンの介助。


「もうこんな時間…?」


ふとジェーンが時計に目をやると、既に11時半を回っていた。

すぐに昼食の準備に取り掛かるためキッチンに立つ。

ほどなくしてロバートとルーシーの喧嘩が開始された。

まだまだ幼い2人、絵本や玩具の取り合いは当然。


「喧嘩始まったよぉ〜」


スティーヴンのあっけらかんとした声がキッチンに届く。


ジェーンはすぐさま喧嘩を止めに入るが、スティーヴンはいつも通りの笑顔だ。


なんとか喧嘩をなだめ、再びキッチンに立つ。


食事が終わると片付け、子供たちを連れ公園へ、帰る途中で買い物を済ませ、家に帰った。


家に着くとすぐに、


「おかえりジェーン、コーヒーを入れてくれないか」


スティーヴンから何の悪意も無い笑顔の要望。悪意が無い分、ジェーンを苦しめていたのかもしれない…。


「ママ、おやつ」


スティーヴンのコーヒーを準備した後、子供たちのおやつを準備した。

おやつとジュースを飲むと、うとうとし出した子供たち。


この隙間時間にスティーヴンが次の学会に必要な書類を整理し、ジェーン自身の物理学の勉強をした。


1979年には3人目の子供となるティモシーが誕生し、側から見ればとても幸せな家庭に見えただろう。

いや、スティーヴンを含め子供たちも何の不満もなく過ごしていただろう。

でも、ジェーンは違っていた。いや、まだジェーンですら、自身の気持ちに気付いていなかったのかもしれない。


この日も教会でいつもの様に祈るジェーン。


ある男が声をかけてきた。


はっきり言って、ジェーンは美人だ。


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