第147話 case 5-アインシュタインからの宿題③
“10の-21乗”がどのくらい小さいのか想像も出来ずジェーンは首を傾げた。
「おいおい、ちょっと待て」
コーヒーを吹き出しそうになりながらスティーヴンは慌てた様子で式を解き出した。
数分後…
「こりゃ、やっぱり無理だな…」
計算を終えたスティーヴンのため息が計算式に吸い込まれる。
「…、…、…」
アーサーは何も言わず何度か軽く頷きながら、コーヒーをゆっくりと一口飲んだ。
2人の天才はこのアインシュタインからの宿題の難解さを理解した。
ジェーンの仲間外れ感がリビングを漂っている。
「ちょ、ちょっと2人で納得してないでちゃんと説明してよぉ」
「あぁ、ごめんごめんハハ、想像以上に弱かったから」
コーヒーカップを持とうとしてやめた手を再度組むとスティーヴンは話を続けた。
「ん〜、例えて言うならぁ…地球と太陽の間で原子1個分の大きさで揺らいでいるって感じ…かなハハ」
「はっ!?原子1個分って…1億5000万kmの間で原子1個分ってこと?弱いっとかって言うレベルじゃなでしょ、それ揺らいでないのと同じじゃない?」
ジェーンの驚いた声はリビング中に響き渡り、その正論は部屋中を駆け巡った。
ジェーンが驚くのも無理はない。地球一周の距離が4万km。光速なら1秒で地球を7周半できるが、地球から太陽までは光速でも約8分かかる。
それほどまでに広大な空間の中で原子1個分の揺らぎは、果てしなく絶望的なほど弱い。
「だから、難しいんだ。ちなみに地球は太陽の周りを楕円軌道で公転しているから、平均距離は1億4960万kmだ」
アーサーの一言でジェーンが放った正論過ぎる疑問は掻き消される。
細か過ぎるアーサーの訂正に目を細めるジェーンは、この極めて困難な解に対して疑問をぶつけた。
「計算は合ってるの?」
「合っている。数分で導き出したスティーヴンは天才だ」
突然のアーサーからの賞賛に素直に顔がほころぶスティーヴンは手を叩き喜んでいる。
彼氏を褒められたジェーンもまんざらではない表情だが、更に根本的な疑問を投げかけた。
「で?その実現不可能と言ってもいい重力波を観測できたら、どうなるの?」
「宇宙の始まりがわかる」
突拍子もない結論を投げ返されたジェーンはスティーヴンへ視線を送り解説を求めた。
「この宇宙はビッグバンから始まったのは知ってるよね?」
「ん〜、こないだスティーヴンが言ってた宇宙初期の電磁波が見つかった、ってやつ?」
「そうそう」
「でも“定常宇宙論”が一般的でしょ?」
「こないだそれは覆ったよ」
昨日までの常識は非常識だと嘲笑う様にスティーヴンの口角が上がった。




