第146話 case 5-アインシュタインからの宿題②
「重力波についてはどうだ?」
スティーヴンの子供の様な無邪気な好奇心は止まらない。
重力波とは、質量を持った物体が加速度運動をする事で時空に生じる歪みが波となって光の速さで伝わる現象である。
ブラックホール同様、この重力波についても一般相対性理論で予言されていたが、観測はされていなかった。
「難しいな、弱過ぎる」
アーサーはきっぱりと即回答した。
「やっぱり?」
スティーヴンは残念そうに項垂れた。
「大きければ観測できるんでしょ?」
ジェーンは一口コーヒーを飲むと単純な質問をしてきた。
「…無理だ…」
アーサーは一瞬ジェーンに目線を送ると、静かに答える。
「例えば…ブラックホール同士の衝突とか?」
スティーヴンは極めて大きな重力波を放射するであろう現象を例えに出してきた。
「ペンを貸してもらえるか?」
アーサーがそう言うと「待ってました」と言わんばかりにスティーヴンは笑顔になる。
ジェーンからペンを受け取るとアーサーは無心に難解な計算を解き始めた。
スティーヴンは式を見て多少の理解は出来ている様だ。ジェーンも何とか着いて行こうと必死に解いている式を睨みつけている。
アーサーは時折り目を瞑って考え込んでいる。だが手は止まらない。
呆れ顔の中にも興味津々で式を理解しようとしているスティーヴン。
ジェーンは諦めたのか新しくコーヒーを入れ直していた。
「…やっぱり、君は天才だよ…」
十数分後、ようやくアーサーの手が止まった。
淡々とした説明が始まる。
「地球上で観測できるほどの大きな振幅の重力波を発生させるには、高密度で非常に大きな質量の物体が加速度運動する必要があるんだが、それはさっきスティーヴンが言ったブラックホール同士の衝突や合体、連星…、…、あとは超新星爆発ぐらい…、仮に太陽質量の数十倍のブラックホール同士が衝突した時に地球に届く重力波の大きさを計算したんだが…」
スティーヴンはここまでの話をニヤニヤしながら聞いていた。それは重力波への興味ももちろんだが、アーサーが“ブラックホール”を連呼していたからだ。
「ブラックホール使い出したなハハ」
「…説明する際は、聞き辛いかと思ってな…本質が伝わらなければ説明の意味がない」
スティーヴンからの指摘に特に反応する事もなく冷静に返答したアーサー。
「ハハハ、そうかそうか、どこまでも効率重視なやつだな」
「はい、新しいコーヒー。それで?どのぐらいの大きさだったの?」
ジェーンが3人分のコーヒーをテーブルに置きながら聞いてきた。
「10の-21乗だ」
アーサーはそう言うと、マスクを外しコーヒーを手に取った。
「???」




