第144話 case 5-万物の理論
現在、この地球が属している宇宙は“無”から始まり今なお膨張し続けていると考えられている。
“無”すなわち何も無い所から宇宙が作られたのだとしたら、自然界に存在する4つの力は1つの数式で現せるはず。
4つの力とは電磁相互作用・弱い相互作用・強い相互作用・重力であり、この4つの力を統一できる理論を“万物の理論”と呼んでいる。
そして、その最有力候補がアーサーが研究している超弦理論であるが、未だ完成には至っていない。
「この理論を成立させるには、この世界は10次元以上でなければならない」
アーサーの溜め息は二重のマスクを突き抜けた。
「10次元!?」
ジェーンは飲み込む寸前のコーヒーを吹き出しそうになった。
「僕たちが認識できていない次元が6つ以上あるって事か…」
「そう言う事だ」
「ん〜、大き過ぎて認識できないか…またその逆か…」
スティーヴンはスムージーを大きく2口飲むと、資料を数枚手に取った。
「素粒子を点としてではなく、1次元もしくは2次元の弦として考えるんだが…」
アーサーの言葉は徐々に小さくなり、目線はテーブルの重力に引っ張られる。
「その弦の振動数…、輪になったり…、捻れたり…、それで次元を理論的に更に増やせるのか?」
スティーヴンは資料に目を通しながら、アーサーに聞いたが、うつむいたままだ。
「あっ、そうだ。アーサーさん朝ご飯まだでしょ?」
沈黙を破りジェーンは何か思いついた様に席を立った。
キッチンへ向かう足取りは軽やかだ。
「あぁ、まだだが、食欲がない…」
アーサーはジェーンに向け言葉を放つが二重のマスクにせき止められた。
「ちゃんと食べてるのか?」
「…たまにな」
「スムージー飲むか?ジェーンが作るスムージーは美味しいぞハハハ」
「アーサーさんから言われた通り、毎朝新鮮な野菜を買って来てるんだからぁ」
ジェーンの声はよく通り聞き取りやすい。
「…超弦理論は君の研究している、重力的に完全に崩壊した物体にも通じる理論だ」
「ハハハごまかすなよぉ、スムージーの話だろ」
「…いや、ごまかしてはいない。もともと超弦理論の話をしていた」
どうやらアーサーはスムージーを飲みたく無い様だ。
それを察したジェーンもスムージーをコップに注ごうした手を止めた。
「分かった分かったハハ、それにしてもまだその言い方なのか?もうブラックホールで良いだろ?」
「私の中ではまだしっくりときていない。穴では無い。中心が特異点とは言え天体だ」
理路整然、そんな言葉がアーサーには似合うが、スティーヴンは面倒臭そうな顔をしている。
「それはそうと、ブラックホールって観測できると思うか?」
スティーヴンは、次何して遊ぼうか、と子供が言う様な楽しげな表情に変わった。




