第138話 case 5-吐瀉物ではないが、吐瀉物となる
アーサーは冷たい人の様に見えるが、空気を読まず事実を伝えているだけ。
ジェーンもそれは十分に分かってはいる。分かってはいるが、恋人のスティーヴンの難病に対して絶望しかなかった中で、効果があるかもしれないという一条の光…もう少し余韻に浸っていたかった。
そんな思いから、ジェーンのアーサーを見る目が一瞬スンと冷めた目になってしまった。
が、すぐに元の表情へ戻した。
スティーヴンの友達で、無愛想ではあるが全く嫌いではなかった。ジェーンはむしろ、スティーヴンの笑顔を取り戻してくれた事に感謝している。
そして、スティーヴンとアーサーのやり取りはとても面白く、聞いているだけで楽しかった。
アーサーからの説明を聞いたスティーヴンが話し出す。
「可能性としては低いが、飲む価値はある…。あるには…あるんだが…」
スティーヴンの声は尻すぼみに小さくなり、それと同時に目線がコップへと落ちていった。
「スティーヴンにとっては一条の光がこれって事ね。絶対に飲むべきだけど、味にかなりの問題がありそうね…」
異臭を放つそれを口に入れる…ジェーンにとってそれは吐瀉物を口に入れるのと同等だ。
「その通りだよジェーン。さすが理解が早いな」
「この際、味はいいだろ。優先すべきはスーパーオキシド・ジスムターゼ酵素を体内に取り込む事だ」
どこまでも事務的なアーサー。声のトーンは常に静かで一定である。
「我慢して飲めるレベルじゃないんだよ。ジェーンが吐瀉物だと勘違いした程の見た目と臭いだぞ」
「でも、実際は吐瀉物ではない。ミキサーにかけたのを君も見ただろ」
「それはそうなんだけどさ、分かってるんだけどさ。結果は同じ事になるだろ?」
「…?…どう言う事だ?」
「このスーパーオキシド・ジスムターゼ酵素の塊を頑張って飲み込んだとしてもだ、多分…いや絶対…吐瀉物となってコップの中に吐き出す事になるんだよ」
「アハハ、吐瀉物の様に見える物が本当に吐瀉物になっちゃう可能性はとても高いわねっ。分かったわっ、私が何とかする」
ジェーンは充実感に満ちた表情で腕を組んだ。
何をすれば良いかすら分からない…ただ、スティーヴンに声をかける事しかできなかったここ数日…すべき事が決まった。




