第136話 case 5-善意の塊
「何か面白かったか?」
アーサーは首を傾げながら聞いた。表情は何も変わらない。いや、少し失礼な事をしたかと困惑気味だった。
「いやいや、ごめんごめん。そこまで調べてくれたのかって思うと、なぜか笑っちゃったよハハ」
「…そうか。ナイフを借りていいか」
淡々と話しを進めるアーサー。
「あぁ、ナイフはここだ」
スティーヴンはキッチンの引き出しからナイフを取り出しアーサーへと手渡した。
アーサーはナイフを受け取るとキウイフルーツの皮を剥き始めた。
「皮剥きなんかできるのか?」
アーサーの手元はかなり怪しい。と言うか非常に危険な手つきだったのでスティーヴンは一応聞いてみた。
「いや、初めてだ」
「ハッハッハッ、実の部分まで切り過ぎだろっ、貸してみろ」
スティーヴンはアーサーからナイフを取り上げるとキウイフルーツの皮を剥き始めた。
「うまいな、いつも料理してるのか?」
アーサーは目を見開き驚きの表情だ。
「ないない、やってないよハハハ。君が下手なだけだよ」
「…、そうか…」
アーサーは中指でズレたメガネの位置を直した。
「これを、そのミキサーに入れれば良いんだな」
スティーヴンはそう言うと、皮を剥き終えたキウイフルーツをミキサーの中に入れた。
するとアーサーはブロッコリーとブロッコリースプラウト、ほうれん草に大豆等の豆類…と、持って来ていた種以外の全てをミキサーへ入れ、スイッチをオンにしようとした。
その時、スティーヴンが慌ててアーサーの手を止めた。
「おっ、おいっ!落花生の殻はさすがに駄目だろ」
アーサーはスティーヴンと目を合わすと、2秒間固まった。
…、
…、
「…、確かに」
「確かに、じゃないよ。勘弁してくれよぉ」
アーサーは落花生を取り出し殻を割る。
そして、スイッチオン。
ミキサーはけたたましい轟音を鳴らしながら内容物を粉々に混ぜている。
大豆とピーナッツ以外は全て緑色のため、緑色のドロドロの液体とも個体とも言えない物体が出来上がった。
アーサーはそれをコップに注ぐとスティーヴンの目の前に差し出した。
「これを…、飲むのか?」
アーサーの善意の塊…とは言え、口に入れるのにはかなり躊躇いがあった。
強烈な青臭さ…その奥に微かにキウイフルーツの甘酸っぱい香り…
「スーパーオキシド・ジスムターゼ酵素を摂取しなければならないからな」
「それは君の説明で理解はしたんだが…、味が…」
「何だ、味を気にするのか?」
「するだろっ、普通」
「そうか、それは考えていなかった。だが、君の体に必要だと思われる酵素だ。こだわる所は味ではないだろ」
「効率しか考えてないのかよぉ…匂いが強烈だぞ。これじゃあ、飲む事がストレスだよ」
スティーヴンは両肘をテーブルについたまま手のひらを天井に向け「飲めない」を表現した。
青臭さに加えて大豆の粉っぽさ、ほうれん草の苦味…匂いだけで最悪の味が想像できた…。
困り果てた2人…
そこへ、
キンコーン…、
呼び出しのチャイムが鳴った。
誰か来た。




