第135話 case 5-湯がくのは駄目だ
アーサーは袋の中から取り出したスーパーオキシド・ジスムターゼ酵素を多く含む食材をテーブルの上に次々と置いていった。
ブロッコリー、ほうれん草にキウイフルーツ、豆類と一気にテーブル上はアーサーの推薦者たちでいっぱいになった。
一緒に図書館で勉強している時と同じ、いつも通りのアーサー。
「これ?って、…かいわれ大根?」
細い細い根に緑色の小さな葉がなっている、それが入った直方体の透明プラスチック容器を持ちながらスティーヴンは聞いた。
「いや違う、ブロッコリースプラウトだ」
アーサーは低く落ち着いた声で訂正した。
「え?…って何?」
「ブロッコリーの新芽だ、成熟したブロッコリーよりもスーパーオキシド・ジスムターゼ酵素を含む栄養素が凝縮されているらしい」
「そ、そうなんだ…、この脱脂綿は?…、まさか食べないよねぇ?…ハハ」
「ああ、食べる物ではない。発芽させる為の物だ」
そう言うとアーサーは袋からビーカーの様な容器を取り出した。
特に笑う様子もない。
「底面に湿らせた脱脂綿を敷いて、その上に8時間ほど水に浸しておいた種や豆を置いておく」
「育てるのか?」
少し面倒臭そうにスティーヴンは聞いた。
「そうだ、ブロッコリースプラウトと同じだ。発芽の過程でスーパーオキシド・ジスムターゼ酵素の含有量が著しく増加するんだ」
「発芽したら、収穫して食べたら良いのか?」
「その通りだ。脱脂綿が乾かない様に数時間おきに湿らす様に。そして、脱脂綿を清潔に保つことが大事だから、定期的に交換をする事。一週間もしないうちに4〜5cmになるらしい」
「らしい…って、育てた事ないのか?」
「ん?あぁ、無い」
「食べた事は?」
「無い」
アーサーは無表情で真っ直ぐスティーヴンの目を見ている。
「じゃあ、どうやって食べれば良いんだよ。ほうれん草は湯がくとしても…」
「湯がくのは駄目だ。スーパーオキシド・ジスムターゼは熱に弱い。だから生で食べるのが一番良い」
「生で…?このまま…?」
「あぁ、だから…これだ」
ゴトッ
アーサーは筒状の40cm程の器具を取り出しテーブルの上に置いた。
「…これは?」
器具を指差しながら聞くスティーヴン。
「ミキサーだ」
アーサーはそう言うとコードをコンセントに差し準備を始めた。
「スティーヴン、コップを準備してくれ」
「あ、あぁ…」
力無く覚束ない足取りのスティーヴン。その歩く姿をアーサーは目で追っている。
「力が入らないのか?」
「あぁ…、スケートに行った日からずっとこんな感じだよ…ハハ」
スティーヴンはステンレスのキッチンにしがみつき苦笑いしながら返答した。
「典型的な初期症状だな。手足の筋力低下から始まる事が多いらしい」
「ハハ、どこまで調べたんだよ」
「図書館にあった文献や論文を数冊読んでみた」
呆気に取られたスティーヴンだったが、嬉しさからか笑いが込み上げて来た。
「アハハハハハハ、ハハハハ、アッハッハ」
「…、…、…」
その姿を見て、驚いた表情で困惑するアーサー。




