第133話 case 5-20回は借金の取り立て
ALSとは筋肉が徐々に弱っていく病気で、その原因はまだはっきりとは判明しておらず、難病中の難病である。その一方で、進行しても視力や聴力、内臓機能、体の感覚など他の機能に異常をきたすことはない。
治療方法は確立されておらず、進行を遅らせる可能性のある薬を投与するのみで、治す薬は無い。故に完治する事は無い。
余命宣告以降スティーヴンは学校に来なくなった。
21歳で余命2年…、当然と言えば当然か。
勉強も恋愛もこれからだった。
キンコーン…、…、…、
ここはスティーヴンの部屋。
キンコーン…、…、…、
オックスフォード出身のスティーヴンはケンブリッジで一人暮らしをしていた。
キンコーン…、…、…、
呼び出しのチャイムが正確な時を刻み鳴っている。
キンコーン…、…、…、
普段なら急かされる様に聞こえるチャイムの音だが、なぜか焦る気持ちにはならない。
キンコーン…、…、…、
むしろその一定のリズムは心地良いとすら思う。
キンコーン…、…、…、
呼び出しの主からは余裕が見られ悪意などは全く感じられない。
キンコーン…、…、…、
ジェーンか?とも思ったが、学校に行く前に顔を見に来たばかり。
キンコーン…、…、…、
ボート部の友人たちなら、もう諦めるかドアを叩きながら名前を呼んでいるだろう。
キンコーン…、…、…、
ジェーン以外とは誰とも会いたくない。
キンコーン…、…、…、
そう思いながらもスティーヴンは無意識のうちに玄関まで来ていた。
キンコーン…、…、…、
ドアを開けると無表情のアーサー。
「やっぱり君か」
険しくも見えるそのスティーヴンの顔は、アーサーを待っていた様にも見える。
「居るじゃないか」
無表情のまま真っ直ぐにスティーヴンの目を見て話すアーサー。
「居るじゃないか、じゃないよ。チャイム何回鳴らすんだよ」
「11回だ」
「数えてたのかよハハ、しかもキッチリ30秒ごとに」
「あぁ、立て続けに鳴らすのは失礼かと思ってな」
「ハハ、どんな気遣いだよ…11回も鳴らしといてハハ…」
「ん?11回は多かったか?20回で出て来なかったら帰ろうと思ってたんだが…すまなかった」
久々に笑ったスティーヴン。心の底からでは無かったが、いつも通り過ぎるアーサーに安心した。
「アハハ、20回って。借金の取り立てかよ」
「…?借金があるのか?」
この手の例えツッコミには非常に鈍感なアーサー。その表情はこの時、無表情から驚きの表情に変化した。
「いやいや、例え話だよ。借金なんかないよ、で?何の用?」
「少し、話を聞いてもらえるか?」
スティーヴンはその質問への返答に躊躇した。
今は人と関わりたくない、楽しく話せる気もしない、当然勉強の話なんかもしたくない、ましてや家に入れるなんてとんでもない…。
ジェーンとですら、玄関先で少し言葉を交わすだけ…。
目を逸らしたスティーヴンだったが、気付けばアーサーとテーブルを挟み向かい合って座っていた。
アーサーは学校に来ない友人を励ましに来たんだ、と言う自己満足や冷やかしの横柄な表情は一切なく、笑えるほどいつもと同じだ。




