第12話 case 3-社長のジョージ
事務所に戻ると、やはり社長からの呼び出しだったようでアビゲイルは社長室へ向かった。
コンコン、「アビゲイルです。入りますよ」
ドアを2回ノックすると直ぐに社長室へ入った。
「まだ、返事してないだろぉ〜」
社長は慌てて立ち上がりながら、スーツの内ポケットへ封筒を入れた。
社長室の一番奥に大きな社長の机があり、その前に更に大きな商談用のテーブルと3人掛け用のフカフカの真っ黒のソファがある。
「いつもの事だろ。それより、タバコに火を着けたばっかりだったんだ。またトムに取られたよ」
「ハハハ、あいつはいつも誰かにもらってるからな。まあまあ、そっちに座って」
テーブルを挟み、社長とアビゲイルはソファに座った。
社長は背筋をしっかりと伸ばした後、深々と頭を下げた。
「長い間、お疲れ様でした。大変お世話になりました。アビゲイル、君には本当に本当に本当に感謝しかない」
「おいおい、やめろよ、ジョージ。頭を上げてくれ。こちらこそ、長い間雇ってくれてありがとう」
2人はお互いに頭を下げ、同時に頭を上げると
目を見合わせ笑い出した。
「「ハハハハハ、ハハハハハッ」」
2人の目には涙が浮かんでいた。
この印刷会社は今の社長の父親が設立した会社で、ジョージとアビゲイルは高校の同級生であった。
就職がなかなか決まらなかったアビゲイルを気にかけたジョージは、当時社長の父親に頼み込みアビゲイルの就職が決まった。
「いやぁ〜、長い様で短かったな」
ジョージは涙をハンカチで拭きながら言った。
「そうだな、入社したのが昨日の事のようだ」
アビゲイルも目頭を抑えながら言った。
「トーマスさん、怖かったなぁ」
「あぁ、ジョージ、君には特にな」
「何回、タバコ投げられた?」
「そんな事、数えてないだろハハハ」
「82回だ…」
「数えてたのかっ⁈ハハハハハ」
「あぁ、1年で数えるの止めたけどな。そう言えば、昔の印刷機は難しかったよな」
「石版印刷か…今となっては、印刷機とも呼べない代物だよ」
「重いし、インクの量とか紙を間違えると仕上がりにムラが出るんだよなぁ」
「そうそう、それでタバコが飛んでくる」
「「ハッハッハッ、ハハハハハ」」
2人は昔話に花が咲いた。




