第127話 case5-スティーヴンとアーサー
2人組の男たちは難解な数式をひたすら解いている。
「だから、ここの単純な計算ミスが原因だよ」
「いや、ちゃんと計算したぞ」
「簡単な式を暗算で済ませるのは君の悪い癖だよ、スティーヴン」
「まいったな、ほんとだ…、こんなとこで計算ミスしてるとはハハハ」
「…、笑えないよ…、スティーヴン…」
3人がけの小さな円卓のため、ジェーンにもノートの数式の詳細がはっきりと見えていた。
「あと、スティーヴン。君の字は汚な過ぎる」
「厳しいなぁ〜、自分で分かるからいいだろ」
「ここの式、vかuか…どっちだ?分からないだろ?」
「う〜ん、確かに…」
「自分で書いたノートを見直せなかったら、ノートを取ってる意味が無いだろう」
「…、…、…、そうそう、そう言えば君もボート部に入らないか?」
「話を逸らすな、スティーヴン」
「何だよもぉ〜、ボート部入れよ。楽しいぞっ、ねぇ?」
スティーヴンは話を逸らしたのを悟られ恥ずかしくなったのか、急にジェーンに話題を振ってきた。
驚いたジェーンは返事に困り、思わず卓上に置いてあったペンを取ると、目の前のノートの数式を解き出した。
「す、凄いねぇ〜…」
少し数学の苦手なスティーヴンは驚きを隠せない様子だ。
「君、学部は?」
「えっ?…あっ…、すみません!物理学科です」
「そうなんだっ、僕たちは大学院で宇宙論の研究をしてるんだよ」
「そ、そうなんですか…」
「僕がスティーヴンで、こっちがアーサー」
「物理学を専攻しているとは言え、この数式をサラッと解けるのは凄い事だ」
アーサーはスティーヴンですら解くのに時間がかかった難問をすんなりと解いたジェーンを褒めた。
「ハハハ、アーサーが素直に人を褒めるのは珍しい事だよ」
「そ、そうなんですか…ハハ、ありがとうございます。相対性理論の話ですよね?測地線の仮定を理解するのはなかなか難しいですよね。等価原理までは直ぐに理解出来ますが…ハハ」
「一般相対性理論だ」
アーサーは少しだけ眉間にシワを寄せ、諭す様に言い放った。
「そこは良いだろ、別に」
「いや、良くないだろ。相対性理論と総称の様に呼ばれているが、特殊相対性理論は一般相対性理論に含まれている。だから、一般相対性理論と呼ばれるべきだ」
「アーサーは真面目過ぎるんだよ」
「こいつ異常に真面目だからさ気にしないで」
スティーヴンは笑いながらジェーンを気遣った。
「そう言えば、名前聞いてなかったね」
「ジェーン・ワイルドです」
ジェーンは2人に向かって会釈をした。
「僕はスティーヴン・ホーキング。で」
スティーヴンはアーサーに自己紹介を促すように顔を向けた。
「私は、アーサー・スミス」
アーサーは無表情で答えた。
「気難しい、無愛想な奴だけどさ、いい奴なんだよ。頭も良いしハハハ」
ジェーンはアーサーに向かってもう一度会釈をしたが、アーサーは返す事なくカバンから水筒とサンドウィッチを取り出した。
「おいおい、ウソだろっ。パーティーにまで持ってくるなよ。持って来るのは手土産だけだ。オリバーに失礼だろ」
「そ、そうなのか?」
アーサーは驚いた表情でスティーヴンに顔を向けた。
「こいつ、頭は良いんだけど、こう言う常識は無いんだよねぇハハ」
スティーヴンはジェーンの方を見ながら、笑いを誘ったが、ジェーンは苦笑いしか出来なかった。
「ハ、…ハハ」




