第126話 case5-出会い
ここはイギリスのとある病院。
一組の男女が椅子に肩を並べ静かに座っていた。診断結果が出るのを待っているのだ。
「大丈夫よ、きっと。勉強し過ぎで疲れてたのよ」
「…、…、…」
彼女は軽いトーンで声をかけるが、彼氏は神妙な面持ちだ。
このカップルの出会いは友人の家で催されたパーティーだった。
時は遡り、ここはホームパーティ会場。
大学の先輩のオリバーに招待され、ジェーンとマリアは夕方から始まったこのパーティーに参加していた。
「昨日はお疲れぇ、飲み過ぎたなぁハハハ」
「どうやって家に帰ったか覚えてないよ…」
「このケーキ美味しぃ」
「オリバーのお母さんの手作りだって」
「卒論のテーマ決まった?」
「私は原子核理論かなぁハハ」
「やっぱり紅茶はアールグレイが一番だね」
「甘い紅茶は、紅茶じゃないわ」
「マジっ!?彼女できたの?」
「バイト先の26歳〜、イェーイ」
若者たちが30人ほど集まり、それぞれに会話をしながら、紅茶とケーキを楽しんでいた。
「ジェーン、紅茶のおかわりは?」
「いいよ、ケーキでお腹いっぱいになりそう」
「ダメダメ、今バーベキューの準備してるんだから、ちゃんとお腹空かしといてよハハハ」
オリバーはバーベキュー用の大きなコンロを運びながら、笑顔で話しに割って入ってきた。
アイスホッケーで鍛えているはずの腕は思いの外細い。
「運ぶの手伝おうか?」
「え?いいの?じゃあお願ぁい」
マリアは明るく気さくな性格のオリバーに気に入られたい様だ。
ジェーンにウィンクで合図すると、オリバーと一緒に行ってしまった。
手持ち無沙汰になったジェーンはケーキをもう一つ取り、少しずつ食べる事にした。
オリバー母の手作りケーキは甘く重いため胃に溜まり過ぎるが、わちゃわちゃ楽しそうな会話が周囲で弾む中、椅子に座って紅茶を飲んでいるだけでは間がもたない…。
すると、
「この席空いてる?」
2人組の男性が声をかけて来た。
ジェーンがスッと顔を上げると、2人とも華奢で眼鏡をかけ、とても頭が良さそうだ。
「ど、どうぞ」
急に話しかけられたジェーンは戸惑いながらも返事をした。
が、男たちはジェーンの返答を待たずに椅子に座り難しそうな数式を書いたノートを広げ会話を再開した。
「スティーヴンいいかい?これは測地線の方程式を使わないと」
「あぁ、それは分かってるよ、その式を解くのが難しいんだよ…、コツはないか?」
「式を解くのにコツも何もないだろ。式さえ出来れば、あとは淡々と解くだけだ」
「…、天才かよ…」
2人組はジェーンの存在を忘れ、パーティーの最中だと言うのに勉強の話をしている。
呆気に取られながらも、ジェーンはノートに目をやっていた。
ジェーンも物理学には自信があったからだ。
これが、冒頭のカップル、スティーヴンとジェーンのファーストコンタクトである。
このパーティーに参加しているのはケンブリッジ大学の学生たちである。




