第122話 case 4-正面玄関ガラス扉
“世界の始まり神教”の事はある程度調べ上げた。
あの日タクシーに乗って来たのは間違いなくテンショウである。
もともと確信はしていたが、更なる確証を得た央吾は次にテンショウの行動を調べ出す。
先日タクシーで降ろした高層マンションが自宅だと分かっていた。
数日間休みをもらい少しずつだが、確実に一人の時間を探す。
その数日間での調査の結果は、“大抵誰かといる”だった…。
家を出る時、帰って来た時、外出中など一人の時もあるが、大抵誰かといる。
数日間あるとは言え、ど素人がちゃんとした調査など出来る訳もない。しかも央吾は絶対にバレない様、怪しまれる事すらない様、長時間の無理な尾行はしていない。
そう考えれば、数日間の調査結果などこんなものか…。
先日タクシーに乗って来た時が千載一遇のチャンスだったのかもしれない。
しかし、央吾には有り余るほどの時間がある。
早朝から深夜まで新大阪駅にタクシーを止め、再びテンショウが乗り込んでくるのを待つ事にした。
家の周辺で待ち伏せする事も考えたが、何時に出て来るのか、帰って来るのか、数日間の尾行で分かった事は…“不規則”のみであり、特定出来る時間は無い。
その為、長時間の待ち伏せは不審者と疑われ通報される可能性もある。しかもテンショウは必ずしも一人とは限らない。
テンショウ一人でなければ決行は断念せざるを得ない。それを何度も繰り返すなど愚の骨頂であり、リスクが高過ぎる。
央吾が出した結論は、新大阪駅での待ち伏せである。
極々自然であり、通報される心配はゼロ。
自分のタクシーに乗らなくても良い。
テンショウが乗り込んだタクシーを追えば良い。
何ヶ月でも、何年でも待つ。
央吾はそう心に決め、助手席にバットを忍ばせた。
数週間後…
胸の痛みと闘いながら、いつもの様に新大阪駅で待っていた央吾。
待ちに待ったその時が意外にも早く来た。
夜10時頃、テンショウが一人で乗車してきた。
行き先を告げるとテンショウは足を組み眠りについた。自宅へと向かう車内で何度か顔を確認したが、テンショウで間違いない。
何度も通ったテンショウの自宅。スムーズに、何のトラブルも無く到着。
「お客さん、到着しました」
央吾はいつも通り無愛想に小さな声で言った後、ルームミラーで後部座席をチラッと見た。
ルームミラー越しに初めてテンショウと目が合った。
酷く不機嫌そうな表情だ。
何か怪しまれる事があったか…?
央吾は直ぐに目を逸らした。
「クッソ眠たいわぁ〜…」
気怠そうに、独り言を吐き捨てると、支払いを済ませタクシーから降りるテンショウ。
タクシーから高層高級マンションの正面玄関の大きなガラス扉まで20m弱。その間に決行する。
央吾は助手席に置いてあったバットを持つと、静かに車を降りた。
音で気付かれない様にドアは閉めない。
何の感情も無かった。
いや、人生を狂わせた憎き相手。
憎悪のみ…。その感情だけはあった…。
ただ…無感情に見えるほど、無表情だった。
素早く…ゆっくり…静かに背後に近付く。
ドラマや映画ではここで名前を呼んだり、大声で叫んだりするが、絶対にしない。
失敗するリスクが上がるだけ。
油断し切ったテンショウの後頭部を射程圏内に捉えた。
少しは躊躇するものかと…手が震えるものかと…
そう思っていたが、央吾自身も驚くほど冷静だった。
白球を打つ時の様に…バットを大きく振りかぶった…その時、
正面玄関のガラス扉に写った央吾の姿を見てテンショウが気付いた。
テンショウが咄嗟に振り向く、、、




