第114話 case 4-デジャヴ
学校に着くと部室にも教室にも行かず、藤棚のいつものベンチに座る。
もしかしたら、佐々木が来るかも…。
央吾は背番号と試合用ユニフォームをカバンから取り出し、佐々木に渡す準備をしていた。
「オーゴ来てたのか、いつまでそこ座ってんだ、朝のホームルーム始まるぞ」
同じクラスのコタニだった。
央吾は一度コタニの顔を見るが、何も答えず目を瞑り呼吸を整えた。
誰かと喋るとまた現実に引き戻される…そう考えていた。と言うか、佐々木がいる世界、いない世界…どちらが現実なのかすら判断出来ていない状態…いや、判断すらしたくない状態であった。
「おい、大丈夫かよ。教室行くぞ」
コタニはオーゴの姿に異様さを感じたのか、心配した様子で近寄って来た。
「ほら、教室行くぞ」
コタニは優しくオーゴの腕を取り引っ張った。
鉄アレーの様に重い央吾の腕、全く力が入っていない事に気付く。
央吾にはその手を振り払う力すら無い。
「…頼む…、…ここに…、…ここにいさせてくれ…、…佐々木さんが来るかもしれないから…」
コタニはオーゴにかける言葉が見つからない。
少し間を置き、ようやく見つけた言葉をゆっくりと、そして優しく投げかけた。
「佐々木さんは…、この時間には来ねぇよ…、いつもこの時間には来ねぇだろ?…、…、次の休み時間にまた来てみよぉぜ」
央吾はじっと考えた後、ようやく目線を上げ小さく2回頷いた。
「そこ、何やってんの。ホームルーム始まるわよ」
担任の石川だ。石川もまた央吾に気付き、心配したのか近寄って来た。
「高梨君、大丈夫なの?」
「…、…、…」
無言で頷くだけの央吾。
スッと立ち上がるが、フラフラする央吾にコタニは肩を貸し教室までゆっくりと歩いて行った。
教室ではホームルームが始まったが、央吾の落ちに落ちた感情に引っ張られる様に教室全体にも暗い空気が蔓延していた。
ガラガラガラッ
教室の扉が慌ただしく開けられた。
学年主任の豊田だ。
「高梨…、帰る準備をしてすぐに職員室に来る様に…」
扉を開けた時の荒々しさとは相対し、落ち着いた低い声だ。
(デジャヴ…?あの時と同じ…)
央吾は父親の事故の日を思い出した。
母親に何かあった…、それだけは確かな様だ…
ただ央吾には母親の事よりも、次の休み時間に佐々木と会う事の方が大事であった。
「俺が連れて行きます」
後ろの席のコタニはそう言うと、央吾を連れ教室の外へ。
央吾は職員室へ行くつもりもなかったが、抵抗する力もない。
廊下をフラフラと歩いていると、
「こっちだ、こっち」
職員室に着く前に正面玄関で待っていた学年主任の豊田が手招きをしている。
「コタニ…、サンキューな…。もし…、休み時間に…佐々木さんが来たら…、背番号とユニフォーム…渡してくれ…」
「…、…、ぁ、あぁ…、分かった…」
力無く喋る央吾に戸惑いながらもコタニは返事をした。
行き先を告げられぬまま、央吾は車に乗せられた。
着いたのは病院ではなく、警察署。
そこで、部屋に通され警察官に告げられた言葉。
それは…、
母親の逮捕、、、、である。




