第113話 case 4-最後の言葉
状況が飲み込めない…。
(佐々木さんのお母さんが逮捕?殺人容疑?)
‘CMの後は天気予報です。’
CMの音声だけが、リビングに響く。
「今のニュースって…、…」
視線をテレビから母親へと切り替える央吾。
母親の顔は強張っている。
「佐々木さんが逮捕されたってことしか…、お母さんにも…」
母親もかなり動揺している様だ。
今日、葬儀を終えたばかりの出来事だ、仕方ない…
母親の事よりも、央吾にとっては佐々木の母親の逮捕?の方が重大である。
(殺人容疑で逮捕?って…、…、無理心中じゃなくて…、2人とも母親に殺された…?…、ってこと?何だよそれっ、どう言う事…、…)
他のチャンネルを回してもそのニュースはやっていない。
また込み上げてくる胃液を感じ、央吾はトイレへ駆け込んだ。
思考が追い付かない。
「ちょっと出てくる」
それを言い残し母親は家を出て行った。
央吾は一人で佐々木の事ばかりを思い出していた。
(ほんとなら、今週末佐々木さんと図書館で勉強だったな…、英単語覚えてなくて怒られてたな…、佐々木さんが死んだ…?…、いや…明日学校行ったらいるかも…、藤棚のベンチで待ってたら、あのいつもの笑顔で現れるかも…、いや…今日葬式だった…、浴衣姿見たかったな…、可愛いかっただろうな…、可愛いかったな…楽しかったな…、いつもコンビニで待ち合わせて…、…、…コンビニ行ってみようか…、またデザートを何にするかで悩んでるかも…、、、、コンビニ行ってみるか)
テレビの前でニュースを探していた央吾だったが、コンビニへ向かおうと立ち上がった。
また目まい…、胸が苦しい…、
うずくまり息が荒くなる…深く息を吸えない…上手く呼吸が出来ない…
そして、また吐き気に襲われた。
真っ直ぐ歩けない…、トイレに辿り着く前に嘔吐した…。
吐くと少し落ち着く。
そしてまた、佐々木の事を思い出し、考える。
すると目まいと吐き気に襲われる。
嘔吐する。
そして、落ち着く…。
それを何度も繰り返した。
ここ数日、ろくに眠れていなかった央吾は憔悴しきっており気付けば朝だった。
そのままリビングで寝ていた様だ。
「起きた?少しでも良いから食べなさい」
母親が台所から声をかけて来た。
寝ていたかどうかも分からない。体の節々が痛い。
白米の匂い…体が受け付けない。
空腹の感覚はあるものの、常に腹を押さえつけられている様に重く苦しい…。
「体調悪いなら、休んでもいいのよ」
「…、…行くって…、…」
母親に聞こえたかどうかも分からない程小さな声だった。
しかしこれが、央吾が母親と交わす最後の言葉となる。
誰とも会いたくない、誰とも喋りたくない、ただ佐々木に会いたい。学校に行けば会えるかもしれない。夢だったかもしれない、ウソだったかもしれない。
学校に行くしかなかった。行ってもう一度確かめるしかない…。
朝はいつもそう思う、思ってしまう、思いたい。
央吾は野球部黒カバンにポカリスエットと背番号、そして試合用ユニフォームを入れ学校へ向かった。
母親と会うのもこれが最後になるとも知らず…。




