第109話 case 4-理由
央吾のグチャグチャになった感情は遂に筋肉を切り裂き、皮膚を突き破り央吾自身に襲いかかった。
「うぁーーーっ!!ぁあーーーっっっ!!」
涙が出ているのかどうかも分からない。
この真っ暗な感情を高校生の央吾にはどう処理すれば良いか分からなかった。
ユージローとタケシだけが錯乱状態の央吾のブレーキだった。
「おいっ!お前らっ、何やってんだ」
後方から声がする。先生だ。
誰かが通報したのか…。
央吾はそれ以降の記憶が無く、気が付けばそこは保健室だった。
「高梨君、大丈夫?」
保健室の大西先生がベットから起き上がった央吾に気が付いた。
そのショートカットの髪型が一瞬佐々木に見えた。
「ん?…、あ…はい」
大西先生の話によると、授業が始まってユージローとタケシがいない事に気が付いた3組の担任たちが2人を探していて、
その時に佐々木の家の前で警察と揉めている央吾たちを発見したらしい。
「いや、揉めてた訳じゃ…、…ないっす…」
泣き崩れ、立つ事も出来なかった央吾をユージローがおんぶして学校まで運んでくれたと言う。
「ユージローは?どこ…っすか?」
「タケシ君と一緒に職員室に呼ばれたわ、理由はどうあれ、学校を抜け出した訳だから…」
大西先生は悲しそうな優しい顔だった。
(やっぱり、佐々木さんの事は現実か…、…)
目を覚ました瞬間、夢だったんだと安堵したのも束の間、すぐに現実を叩き付けられた。
また涙が溢れ出す…
「やっぱ…、やっぱり…、佐々木さんは…、…」
大西先生は何も言わず、央吾の肩にポンと優しく手を置き、寄り添ってくれた。
ただ、佐々木によって修復の傾向にあった央吾の心の傷は、瘡蓋が完全に剥がれ再び生傷へと変わりつつあった。
コンコン、
保健室の扉をノックする音。
「はぁい」
大西先生は涙を拭いながら扉に向かって返事をした。
扉を開けると、3組の担任の原田先生がいた。
「高梨、どうだ?大丈夫か?」
「あ、…はい。…、…すみませんでした…」
「ん?あぁ、まあその話はまた後だ。今、警察が来ててな、話を聞きたいそうなんだが、体調どうだ?無理はしなくていいぞ」
「…体調は…、大丈夫…っす。俺に、何っすかね?」
「それは分からないが、体調が大丈夫なら、一緒に着いて来てくれ」
職員室の中には、木目のパーテーションで区切られた面談スペースが設けられており、そこには既に警察官2名、央吾の担任の石川先生、ユージローとタケシが座っていた。
「オーゴ、大丈夫か?」
「あぁ、落ち着いたよ。ありがとな…」
央吾が椅子に座ると、早速警察官が喋り出す。
「早速ですまないが、娘さん…ミオさんの最近の様子について、気になった事とかないか?」
央吾たち3人はお互いに顔を見合わせると、央吾が答えた。
「特に無い…っす。昨日も…いつも通りでした」
「君に渡した背番号、何でミオさんが?」
「…、縫い付けてくれるって…、…預けて…、ました」
「そうか…、他に約束してた事ってある?」
「?…、今週の土曜…、図書館で勉強…とか…、夏休みに…、…花火大会…、…とか…、…」
「何なんですか!?その質問は?」
央吾の担任である石川先生が怒り気味に割って入って来た。
「あ、すみません。ごめんな」
警察官2名は謝罪した後、顔を見合わせ、小さく頷くと説明しだした。
「実は…、ミオさんの亡くなった理由なんだけど…、…、…、自殺なんだ…、…、…」




