第108話 case 4-何も言うな…
振り返り歩き出した央吾に、タケシが声をかける。
「ぉ、おい、どこ行くんだよ」
「…、…、…、佐々木さんち…、…、多分…、…家にいんだろ…、…、話聞いてくるわ…、…」
その力無い声は、意識がはっきりとしているとは思えなかった。
「俺も一緒に行くぞ、いいな?オーゴ」
ユージローは央吾の背中に話しかける。返事を聞く前にユージローは歩き出した。
央吾は一瞬立ち止まり、
「…、ぁぁ…、…」
蚊の鳴く様な小さな声で返すと、また歩き出した。
「おい、でも学校…、…どうすんだよ。正門の方にはテレビ局のやつらがいっぱいいるぞっ」
タケシは2人に言ったが、何の返事もない。
央吾とユージローはテレビ局の取材を受けなくていい様に、誰もいない東門から出て、佐々木の家へ向かう。
いつもの2台並んだ自動販売機。そこから30m程奥に行けば、佐々木の家だ。
家が見えた。が、警察官が数名、パトカーも数台止まっており、規制線が張られていた。
央吾とユージローは止まる事なくそのまま規制線の中へ入ろうとした。
「おい、さすがにヤバいだろ」
2人を止めたのはタケシだ。央吾を心配し着いて来ていた様だ。
その動きに気付いた警察官が一人近付いて来た。
坊主頭の3人組。それだけで何かを察したのか、
「君たち、野球部か?」
「…?…、え?あ、はい」
急な警察官からの問い掛けに、タケシがしどろもどろで答えた。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、その警察官は家の中へ入りすぐに出て来た。
「君たち、これに心当たりはないか?」
警察官が見せて来たもの、それは昨日央吾が佐々木に渡した背番号だった。
「…それ、…、俺の…っす」
央吾がそう答えると、
「娘さんの枕元に大事そうに置かれてあったんだ」
そう言いながら央吾に背番号を手渡した。
央吾はその背番号をじっと見つめた後、強く握りしめた。
少し落ち着きかけていた呼吸がまた荒くなる…
「佐々木さ、…ミオさん…、は?どこっすか」
「…、病院だよ…、三ツ島病院」
警察官は低く優しい声で教えてくれた。
「…病院行ってくる」
央吾はまたすぐに振り返り歩き出そうとしたが、ユージローが央吾の腕を掴み制止させる。
央吾の方を見る事なく、警察官をじっと見つめると、グッと目を閉じ大きく深呼吸した。
ユージローが喋り出す…、…
「…ミオさんの…、…、、、、
央吾にはユージローが何を言うのか…分かった…
(待ってくれっ、聞くなっ、聞くなっ!聞かないでくれっ!)
、、、、…ミオさんの…、…、容体は?」
央吾はゆっくりと振り返り、警察官を見た。
(やめてくれっ!言うなっ、言うなっ!何も言うなっ!)
警察官は小さくゆっくり、そして3人に分かる様に首を横に振った…
「救急車が到着した時には…、もう…、…、…、亡くなってたそうだ…」
「っ言うなぁーっっ!!あぁーっっ!!」
警察官に掴みかかろうとする央吾をユージローとタケシは必死に止めた。




