第106話 case 4-別れ②
中村動物病院から紹介を受けた動物霊園には火葬場もあった。
「それでは最後のお別れとなります」
火葬用の台車にチロを乗せるように言われるが、央吾にはなかなかそれが出来なかった…
チロを離せずにいた…
昨日まで元気だった。散歩も楽しそうだった。ご飯もクッキーも美味しそうに食べていた。
「幸せだったと思うよ、この年まで病気もせずに生きられたんだ。君が大切に育てたんだ、すごい事だよ」
さっき中村動物病院の先生が言ってくれた言葉を思い出す。
“大往生”、“幸せだった”
そんな言葉が今の央吾を支えていた…
ようやく…、…、…、なんとか…、…、…、…、チロを台車に乗せる事が出来た…
が、やっぱり離れられない…
「チロ…、チロ…、チロ…」
央吾は何度もチロの名前を呼び、頭を撫でる…
涙が視界を遮り、チロの顔がちゃんと見えない…
何度も何度も涙を拭い、チロの顔を見る…
…、…、
安らかな顔だった…
「もういいよ、楽しかった、もっと遊びたかったけどな、ごめんな、もっと笑えよ、わん、ワン」
チロはそう言っている。
央吾には分かった。
「っんだよ、謝るなよ、ハハ…」
涙を流しながらも、少し吹っ切れた様子の央吾。
台車から離れてはみたものの、チロが焼かれるのは辛かった…
また涙が溢れ出す。
「チローー!チローー!笑ってるぞっ!俺笑ってるからっ、チローー!バイバァーイ」
央吾と母親だけだったが、こじんまりとちゃんと葬儀もした。
家に帰る道中、特に母親と話す事もなく、無言で歩いていた。
「央吾、最近帰りが遅いけど何してるの?」
母親は唐突に聞いて来た。
「…いや、部活だろ」
そっけなく答える央吾。
佐々木の事は、母親には言ってない。
(チロは全部知ってるが)
「そう…」
更にそっけない返事の母親。
(何だよ、昨日は俺より遅かったじゃねぇか)
と思ったが、言うのも面倒だった。
チロがいない日々がこれからは続く。
いつかは来ると思っていたが、あまりにも突然…
家に着いたが、当然チロの姿は無い…
チロがいない…
ただそれだけで、央吾には高梨家がこの上なく殺風景に見えた…
また涙が出て来た…
「一回学校には連絡入れてるけど、今日は休む?」
まだだった朝食の準備をしながら母親が聞いてきた。
一瞬休もうかとも思ったが、佐々木との約束もある。
「いや、行くよ」
呟く様に答える央吾。
朝食を食べ終えると、試合用のユニフォームを野球部黒カバンに入れ学校へと向かった。
学校に着くと大きなカメラ?を持った人、あと数名の大人が遠くに見えたが、特に気にする事もなくそのまま教室へと歩いた。
ちょうど休憩時間になった時間の様だ、生徒たちが廊下に出てだべってる。
なぜか女子が数名集まり泣いていた。
央吾もチロを思い出し、目に涙が溜まっている。
「そう言えば目が真っ赤だな」
制服で涙をゴシゴシと拭っていると、
「オーゴ!オーゴ!何やってたんだよっ」
タケシの声だ。ひどい慌て様だ。
何って…チロが死んだ…、…、…、
口に出すのも嫌だった…
「…、…、…、…」
勢いよく近付いて来たタケシだったが、言葉に詰まっている様子。
「何だよ」
今はあまり誰とも話したくない…そんな気分の央吾だが、タケシはただならぬ表情だ。
「佐々木さんが…、…、…」
「?…、…、佐々木さんがどうかしたのかよ?」
「…、…、…、…」
また言葉に詰まるタケシ。
「オーゴ、本当なのか?どう言う事だ?説明しろ」
ユージローが割って入って来た。
「?…、…な、何がだよ…、…」
「ミオさんの家に行ってたんじゃないのか?」
「は?朝から行かねぇだろ…、行ってねぇよ」
央吾は状況が分からず2人の目をじっと睨む様に見ている。
ユージローがゆっくりと口を開く…、…
「ミオさんが…、…、亡くなったそうだ…、…」
「…、…、…、…、?…、…、…、は?…、…」
別れとはいつも突然である…。




