第105話 case 4-別れ
別れとはいつも突然である…
早朝、央吾は尿意と共に目を覚ます。
しかめっ面で時計を見た。
「3:58 かぁ〜、…、…」
何とかもう一度寝ようとしたが膀胱がそれを許してくれなかった。
仕方なくトイレに行こうと階段を降りた時、チロが寝ている。
いつもなら足音に気付きこっちを見てくるのに…
不思議に思った央吾は玄関で寝ているチロに近付く。
2、3歩近付いただけで、その違和感の正体が判明した。
寝ているのではない、倒れている…
「チロ!、おいっ、チロ!!」
直ぐに抱きかかえるがチロにいつもの力強さはなく、もう冷たい…
いつもよりも重たさを感じる…
「チロ?…、…、チロ?」
小さく呟く様に問いかけるが…反応は無い。
「チロォーッ!!チロォーッ!!いつまで寝てんだっ!?起きろっ!!」
力なく目を瞑ったままのチロ…。
「どうしたの?そんなに大きな声出して」
母親が央吾の声を聞き起きて来た。
「チロが…、…、チロが…、…」
央吾の声は震えている。
「えっ!?」
母親も驚いている様子。央吾に近寄り、チロの頭を撫でる。
「あんたよりも年上の17歳だからね…人間で言うと80歳以上よ…」
「おいっ!チロっ!散歩行くぞっ!!好きだろ散歩!!」
央吾に母親の言葉は届かない。
「ゆっくり寝かせてあげなさい」
「クッキーだぞっ、ほら食べろ、口開けろっ」
央吾はチロの口を無理矢理開けてクッキーを押し込もうとする…
母親はその手を取り、
「ゆっくり寝かせてあげなさい。中村なら今から診てくれるかも」
「行こうっ!すぐ行こうっ」
中村とは近所にある動物病院。
病気には罹ったことがないチロだが、予防接種などはこの中村で受けていた。
中村に着くとすぐに診察してくれたが、チロは既に息を引き取っていた。
「老衰だね、悲しいけど、でも大往生だよ」
「わぁーーっっ!チロォーーー!あぁーーーっ!!嫌だぁーっ!チロっ!チロっ」
チロの死…
それは玄関で央吾の脳裏をかすめていたが、遠くへ遠くへ追いやっていた。
チロを抱きかかえ、中村まで走っている道中も「まだ生きている」と何度も自分に言い聞かせ、信じようとしていた…
老衰…、…、死…、…
現実をど真ん中へ投げ込まれた。
避けようが無かった…、もう遠くへ追いやることは出来なかった…
央吾は何度も何度もチロの名前を呼び、頬ずりしながら泣いた。
誰の死よりも辛かった…
央吾が生まれた時には、もうチロはいた。
毎日散歩した、郷田からも助けてくれた、野球も教えた、一緒に家出もした、嫌な先輩の話もした、高校に入ってすぐに告白されたことや、佐々木との事、母親には言って無い事もチロは全部知っている…
チロとの思い出なら無限だった。思い出の数だけ涙が出る。
紛れも無く親友、紛れも無く相棒。
その唯一無二の相棒が死んだ…




