第104話 case 4-暗記カード
快挙の背番号。予備などあるはずがない、この超大切な物をコンビニに忘れるという大失態。
それを佐々木は阻止してくれた。
「良かったぁ〜、ありがとうっ、焦ったぁ〜」
「私が縫い付けても良い?」
佐々木は背番号を目の前に広げ聞いて来た。
「マジッ!?いいの?ってか裁縫もできるんだっ、凄ぇ」
「ん〜、〜、得意ではないけど…、これぐらいなら多分ハハ。央吾君のために頑張ります」
「嬉しっ、絶対ヒット打てるわぁ」
「絶対応援行くから、頑張ってね」
「もちろん、もう打てるイメージしか湧かないわぁ」
「アハハ良かった。じゃあ明日ユニフォーム持って来てね」
央吾には佐々木が勝利の女神に見えた。
「そうだ、ちょっと待ってて」
そう言うと佐々木は家に向かって走って行った。
テニス部白リュックを背負い、重いスポーツバックを持っているにも関わらず、軽ぅく走っている佐々木の姿は、陸上部かと思うほど走り方が綺麗だ。しかも速い。
直ぐに何かを持って戻って来た。
大きな高級そうな和紙を折りたたんでいる。
「夏休みに花火大会あるでしょ?これ着て一緒に行きませんか?ハハ」
その和紙に折りたたまれてあったのは紺色の浴衣であった。
「行く行くっ、絶対行く!一緒に行きます!」
「アハハ、やったぁ、良かったぁ。じゃあ約束ね」
「この浴衣めっちゃ綺麗。いいのっ?」
「うん、お父さんのだけど、着てるの見たことないから」
「どれどれ」
佐々木はそう言いながら、浴衣を央吾の肩から腰にかけて当てて見ている。
「うん、思った通りっ、似合う似合う」
「似合ってる?」
「めっちゃ似合ってるよ」
「佐々木さんも、浴衣?」
「うん、これとお揃いの紺色」
「お、お揃いの浴衣で花火大会」
央吾のニヤニヤが止まらない。
「これは無地だけど、私のは朝顔の柄が入ってるのぉ」
「佐々木さん、浴衣似合いそぉ〜」
央吾は佐々木の浴衣姿を想像すると、更にニヤニヤが止まらない。
「央吾君、変な顔になってるよハハ」
「ん…?…、ヤバッ…」
央吾は顔をパッと引き締めた。
「あぁ〜、夏休み楽しみだぁ〜」
「フフ、私もぉ〜」
「でもその前に、試合だなっ」
「うんっ、でも…、その前に期末テストがあります」
「…、…、…、そうでしたハハハ」
「期末テストの事忘れてたでしょ?」
佐々木は浴衣を自分の腕にかけると、スカートのポケットから何かを取り出した。
「これ使って、ちゃんと覚えて」
「何これ?」
「英単語の暗記カード」
「へ、へぇ〜…、…、…」
「もしかして、使った事ない?」
「は、はい…、…」
佐々木は呆れ顔だ。
「表に英単語、裏にその和訳を書いてあるから、こう、こう」
佐々木は暗記カードをペラペラとめくりながら説明した。
「おぉ〜、なるほど」
「期末テストの範囲になる所の単語だから、ちゃんと覚えてね」
「アイアイサー」
敬礼する央吾。
「今週の土曜日に図書館で単語テストね」
「えっ、えぇ〜!」
「え〜!じゃない!ビジバシいきますっ」
「はいっ、佐々木先生っ、頑張ります」
「アハハ、…、じゃあ…、また明日ね」
別れ際、佐々木はいつも悲しそうだ。
切なくも愛おしい瞬間である。
「うん、また明日」




