第103話 case 4-腹筋崩壊
佐々木の“自称だっふんだ顔”、央吾の笑いのツボであった。
あんなに可愛い顔が、これでもかって言うぐらい険しい顔でしゃくれている。
面白過ぎて涙がこぼれ落ちる。
「ハハハ、ハハハハハ腹痛ぇ、イタタタッ」
「こうでしょ?こう」
また佐々木が“自称だっふんだ顔”をやる。
「ハハッ、ちがっハハハ、違うハハハ、こうっ」
負けじと央吾も、だっふんだを見せつける。
すると佐々木も大爆笑。
「アハハ、上手っハハハ、にっハッ、似てるッフハハハ」
手を繋いだままお互いに、だっふんだ、を繰り返す。
何往復しただろうか。いつまでも終わらない攻防戦。
繋いだ手は体温を共有し違和感がなく、繋いでいるという意識すら無くなり始めた頃、2人の腹筋は崩壊した。
「「イタッ…、… ッ…、…、タッ…、…、」」
2人同時に前屈みになり、息が止まる。
…、…、
数十秒間固まっている2人。手は繋いだまま。
…、…、
「「ップハァーッ、フーッ、フーッ」」
一気に肺へと酸素が流れ込む。
「あぁ〜、やっと息できたぁ」
「あ〜笑った笑った、佐々木さん面白いわぁ」
「央吾君こそ、めっちゃ似てたよ」
「小学校の時からずっとやってるからね」
「男子はそう言うのずっとやってるよねぇ」
「ハハハ、志村けん最強っ」
「アハハ、今日は笑い過ぎたぁ」
「だね、明日ぜったい腹筋筋肉痛だわっ」
2人はようやく歩き出す。
急に佐々木の表情が曇る。
央吾がふと視線を前方へ向けると、2つ並んだ自動販売機。
いつものお別れの場所だ。
安堵に満たされた時間がもう終わる。
央吾は佐々木にスポーツバックを返すと、自動販売機でポカリスエットを2本買い、佐々木に1本渡した。
「今日はごちそうさま。これどうぞ」
「ありがとう、快挙のお祝いと思えば安いものです。気を失った央吾君も見えたしハハハ」
「もぉ〜勘弁して下さいよぉ〜」
恥ずかしさからか、変な喋り方の央吾。
「アハハ、ごめんごめん」
「でもぉ〜、また“あ〜ん”お願いしますハハハ」
「いいよっ、でも次は気を失わないでよぉ〜」
佐々木は央吾の喋り方を真似ながら楽しそうに笑っている。
央吾はポカリスエットを一口飲むと、野球部黒カバンに入れようとした、その時。
「ヤベッ、背番号、コンビニに忘れて来たっ」
意識を失っている間にどこかに置いてきてしまったようだ…おそらくコンビニのベンチ。
バタバタと黒カバンの中をあさりだす央吾。
「アハハごめんごめん、私が持ってるよ」
佐々木がテニス部白リュックから背番号を取り出した。




