第9話 case 3-兄のカミラと弟のジアナ
リビングで鳴り響く電話音。早朝に聞くと、
一段と耳障りである。
ジリリリリリリリリン… ジリリリリリリリリン
ジリリリリリリリリン… ジリリリリリリリリン
ジリリリリリリリリン… ジリリリリリリリリン
ジリリリリリリリリン… ジリリリリ…ガチャ
「もしも「おはようっ、ジアナ!父さんの定年祝い、こないだ話してたやつ、あれで決まりって本当かっ!?」
ジアナが電話を取った瞬間、早朝とは思えない程のテンションで食い気味に問いかけて来た。
「あぁ、多分ね」
ジアナはしっかりと早朝のテンションで
返した。
「はぁっはぁ〜っ!さすがだなおいっ!凄いよジアナ!」
「あのね兄さん、今何時だと思ってるの?
ニューヨークはまだ朝の5時だよ…
時差考えてよ…」
寝起きでジアナの目はまだ開ききっていない。
「ん?あぁ、そうか、悪い悪い。どうしても
早く確認したくてな」
兄のカミラの声のトーンが少しだけ落ちた。
「昨日も遅かったんだ、全然眠れてないんだよ…でも父さんも母さんも喜ぶよなぁ〜?」
「当たり前だろ〜、二人とも旅行好きだしな」
「そうだよな。シャーロットはまだ納得して
ないみたいだけど…なかなかこんな機会もないからさ」
「シャーロットには俺からも今週末にお礼を
言うよ。あとは母さんの足の事だけが心配だけど…」
カミラのトーンがガクンと落ちた所で、ジアナは視線を感じ振り返った…
まだ開ききっていなかったジアナの目が一気に開いた。
そこには、髪の毛ボサボサのシャーロットが
腕を組み、頭を右に傾け、表情は…
確実に怒っている。
「兄さん、まだ父さんと母さんには言わないでよ、驚かせたいから、じゃあね今週末ボストンで」
ガチャ
ジアナは慌てて電話を切ったが、シャーロットの機嫌が直るはずもなく…
「お兄さんからでしょ?こんな朝早く…あの件は、仕方がないとは言え、まだ怒ってるのよ…本当は私達が乗るはずだったのに!サディも楽しみにしてたのよっ!
しかも今何時だと思ってるの!?昨日も遅かったでしょ?
ようやく、さっき寝たとこよ!こんな朝早く電話鳴らして、サディも起きちゃうじゃないっ」
(君の声でサディが起きるよ)とは絶対に言えないジアナであったが、シャーロットの怒りも少し理解できた。
シャーロットの父親は大物政治家で、ジアナはその秘書であった。
今回のチケットも義父が譲ってくれた物で、
ジアナとシャーロット、そして娘のサディの3人で行く予定であった。
しかし、義父がお世話になっているタフト大統領からロサンゼルスへ同行する指示があったのである。もちろん、秘書のジアナも…
当然断われるはずもない。予定していた休みは帳消しと同時に旅行も中止となったのである。
「ごめよ、シャーロット。でも僕はお義父さんの秘書だ。同行するしかないだろ…起こしてしまってごめんよ、もう少し寝よう」
そう言うと、ジアナはシャーロットを横抱きし寝室へ向かった。
一方、電話を切られたカミラはロンドンの銀行から電話をかけていた。
「ジアナのやつ、急に早口になったなぁ。
シャーロットが起きちゃったか、、、
確かに5時間の時差…すっかり忘れてたなぁ…
すまん!」
カミラは受話器に向かって謝った。
「ミラー支店長、チェルシーFCのオーナーが
来られています。応接室までお願いします」
「分かった、すぐ行く」
カミラはロンドンのバークレイズ銀行の支店長であった。
バークレイズ銀行は歴史ある銀行で、大企業はもちろん、これから会社を設立しようとする起業家までが融資を求めて日々商談に訪れる、
誰もが認める大手銀行である。
このバークレイズ銀行で若くして支店長となったカミラは、いわゆるエリートである。
チェルシーFCはロンドンをホームタウンとするプロサッカークラブで創設7年目のチームでありロンドンの若者の中では大人気であった。
「チェルシーだろ、面談するまでもなく、融資決定だよ」
そう言うとカミラは席を立ち、応接室へ向かった。




