第7章ー47 入社試験
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ホーゲルの言葉に、その場にいた全員が驚いていた。
この荒廃した時代、争いの火種などどこにでも転がっている。
それが当たり前だと思っていた。
だが——
「旧帝国地域が……安全?」
ロゼッタが小さく呟き、信じられないという表情でホーゲルを見る。
「そんなに治安がいいの?」
かつて廃都市で蘇り、その後帝国領を脱出したロゼッタにとっては、とても受け入れ難い話だった。
ホーゲルはゆっくりと頷く。
「ああ」
その答えは簡潔だったが、重みがあった。
「国境の検問は厳しい。だがな、一般人やまともなキャラバンなら、荷を調べられるだけだ」
淡々と続ける。
「違法な物を持っていなければ、没収もされない。金を取られることもない」
実際にそれを経験した本人でさえ、どこか信じきれていないような口調だった。
「モンスター、野盗、犯罪者……そういう連中は徹底的に排除されている」
グレンが無言で眉をひそめる。
「街には兵士も多いが、普通にしていれば何もしてこない」
ホーゲルは少しだけ言葉を選びながら続けた。
「驚いたよ。どの街も活気がある。モンスターや野盗に怯える必要がない」
リンが思わず小さく息を呑む。
「税も特別重いわけじゃない。その結果……帝国領は急速に力を取り戻している」
そこで一度、言葉を切る。
「まるで——国そのものが変わったみたいだ」
静かな一言だった。
そして、さらに続ける。
「 “墓戻り” を捕らえて集めているって話もあるが……一般人にとっては関係ない」
エレナが腕を組み、考え込むような表情をする。
「むしろ、暴走の危険がある旧文明の遺物を回収してるってことで、評価する声すらあるくらいだ」
ホーゲルの話が終わると、部屋には重い沈黙が落ちた。
誰もすぐには言葉を発せなかった。
それほどまでに——その内容は、今までの常識を覆すものだった。
ホーゲルが腕を組み、少し考えるように視線を落としたあと、言葉を続ける。
「ただな……帝国が今すぐ何か仕掛けてくるとは考えにくい」
静かに断言する。
「兵士の数は多いが、やってることは徹底した治安維持だ。それ以上の動きは見えない」
グレンが黙って耳を傾ける。
「他の地域みたいに、食糧の値段が上がってるわけでもない」
淡々とした口調のまま続ける。
「その点は安心していいと思う。
少なくとも……ハンターギルドにちょっかいかけてくるような真似はしないだろうさ」
そう言って、ホーゲルは話を締めた。
一瞬の静寂のあと、グレンが口を開く。
「ハンターギルドとしても、他国の情勢は重要でね。こういう生きた情報はありがたい」
軽く頷きながら、真っ直ぐホーゲルを見る。
「助かった。ありがとう」
ホーゲルはその言葉に小さく笑った。
「ならよかった」
そして、肩をすくめる。
「じゃあ……面接でも受けてくるか」
冗談めかした口調でそう言うと、そのまま部屋を出ていった。
扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
その後——部屋には、何とも言えない空気が残った。
誰もすぐには口を開かない。
その沈黙を、ロゼッタの小さな声が破る。
「あの帝国が……皇帝の国が、安定してるなんて……信じられない」
視線はどこか遠くを見ていた。
「ほんの少し、刃を交えただけだったけど……」
記憶をなぞるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「力の信奉者って感じだった。力がない者は要らないって……そんな空気だったのに」
拳が、無意識に握られる。
「……一体、何を考えてるの」
声には出さなかった。
だが、その疑問は確かに胸の中で形を持っていた。
その頃——別の部屋では
ロベルトとホーゲルが向かい合っていた。
ロベルトが椅子に腰を下ろしながら、ゆっくりと口を開く。
「ソニアから聞きましたが……専門は機械化だそうで」
視線をまっすぐホーゲルに向ける。
「最近はハンターも増えてきてね。その中には機械化した者もいる」
少しだけ頷き、続ける。
「正直、専門家が来てくれて助かる」
ホーゲルは静かに聞いている。
ロベルトは軽く笑みを浮かべた。
「ガレージの一角に作業場を用意します。義手や義足の調整、整備もできるようにね」
そして、言葉を区切ってから——
「必要な物があれば、遠慮なく言ってください」
その言葉は飾り気がないが、確かな信頼を含んでいた。
ホーゲルはわずかに目を細める。
「……いいのか?初対面だぞ」
ロベルトは肩をすくめる。
「ライラが連れてきた人だ。それで十分だ」
短いが、それ以上の理由はいらないと言わんばかりだった。
ホーゲルは小さく息を吐き——
「なら、ありがたく世話になる」
そう言って、わずかに口元を緩めた。
しばらくして——
扉が開き、ロベルトとホーゲルが部屋に戻ってきた。
二人の表情は穏やかで、先ほどの話がうまくまとまったことがうかがえた。
ホーゲルは部屋を見回し、ロゼッタに目を向ける。
「ロゼッタ、義手の調子はどうだ?」
その声は、どこか柔らかかった。
ロゼッタは少しだけ腕を見下ろしながら答える。
「今のところ支障はないけど……一度見てほしい」
ホーゲルは頷いた。
「ああ、任せろ」
そしてロベルトの方へ顔を向ける。
「作業台、借りてもいいか?」
ロベルトはすぐに笑って頷いた。
「もちろんです。使ってください」
そのやり取りを見て、ロベルトが興味深そうに一歩近づく。
「よければ……作業を見せてもらっても?」
ホーゲルは軽く肩をすくめた。
「構わないさ」
そう言ってから、わずかに口元を緩める。
「ちょうど入社試験みたいなもんだしな。気合入れて整備しないとな」
その一言に、場の空気がふっと緩む。
リンがくすっと笑い、エレナも小さく笑みを浮かべた。
張り詰めていた空気が、少しだけ軽くなる。
ロゼッタも、その言葉に安心したように微笑んでいた。
続く
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