第7章ー42 恩返し
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ロベルト親子が、その場で今後について話し合っていた。
ロベルトがふと視線を外へ向ける。
「新市街は大袈裟だが……あれを見てくれ」
そう言って、敷地の外に建設中の建物を指差した。
セリカが目を細めて見る。
「あれは?」
「宿だ」
ロベルトは簡潔に答えた。
「整備や修理ってのはな、場合によっては何日もかかる。食事もそうだが、泊まれる場所はないかってよく聞かれるんだよ」
少し肩をすくめる。
「元々この街は人が来る場所じゃなかったからな。宿泊施設も少ない。だから作ってる」
それを聞いたラベートがすぐに言葉を重ねる。
「ギルドが移るとなれば、宿だけじゃ足りないな。ハンターの住居も必要になる」
「だな」
ロベルトもあっさりと頷く。
次から次へと話が広がっていく。
その流れの中で、セリカがぽつりと呟いた。
「……なんかさ、ここ何ヶ月かで、この街一気に変わったよね」
ロベルトはその言葉に、少しだけ遠くを見るような目をした。
「トンネルが繋がって、お前達がこの旧軍事基地を見つけて、管理を任せてくれて……」
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「何十年分の時間が、一気に進んだ感じだな」
そして視線をさらに遠くへ向けた。
「セリカ、今この街のジャンクがどんどん運び出されてるの、気づいてるか?」
セリカがはっとして顔を上げる。
「……あ、本当だ」
かつて大きく積み上がっていたジャンクの山があった場所を指差す。
今は明らかにその量が減っていた。
ロベルトが続ける。
「今まではな、危険な山道を越えるか、大きく迂回しないとこの街には来れなかった」
「だがトンネルが繋がった。大型車が簡単に入って来れるようになった」
言葉に力がこもる。
「ここのジャンクが、お前達が行ったアムル河の街に運ばれる。
そこから河を渡って、企業連合の街へ流れていく」
「そして――生まれ変わる」
一拍の間ののち
「ジャンクが金に変わってるんだ」
セリカは何も言わず、その話を聞いていた。
ロベルトはさらに続ける。
「ジャンクばかりでまともな土地もなかったこの街に、まっさらな土地が生まれ始めてる」
「人が、物が、仕事が流入し、街の人間の生活水準もあがっている」
そして、ゆっくりと視線を戻した。
「それも――あの子のおかげだ」
そう言って見た先には、屋台の一角。
クレープを両手に持ち、幸せそうな顔で夢中になって食べているロゼッタの姿があった。
セリカもつられてその方を見る。
ロベルトが静かに言う。
「あの子がこの街に来て、俺達も、この街も変わったんだ」
その言葉の中には、確かな実感が込められていた。
「だからな――恩を返すってわけじゃないが」
ロベルトがそう言って、別の方向へ顎で示した。
そこには、壁で囲まれた大きな建物が建設中だった。
骨組みはすでに出来上がり、内部もかなり広いことが見て取れる。
セリカが目を向ける。
「あれ……?」
ロベルトは静かに言った。
「もしよければだが、お前達にあそこを使ってほしい」
静かな口調だったが、その言葉にははっきりとした意思があった。
「人や車両が増えても対応できるように、大きめに作ってある。拠点として使ってくれ」
さらに言葉を重ねる。
「車や、武器防具のことならすぐそばに俺たちがいる」
その言葉に、セリカは一瞬固まった。
そして次の瞬間、目に涙が浮かぶ。
「父さん……いいの?」
ロベルトは迷いなく答える。
「これくらいはさせてくれ。そうじゃないと気がすまん」
軽く笑いながら、周囲を見渡す。
「大丈夫だ。今のところ順調そのものだ。仕事も途切れんし、車も売れた」
そして少しだけ力強く言った。
「まだまだ、この整備場は大きくなるぞ」
その言葉に、セリカは何度も頷いた。
そして、ぱっと顔を上げる。
「ロゼッタ達に、この事言ってもいい?」
ロベルトは即答する。
「もちろんだ」
その言葉を聞いた瞬間、セリカは駆け出していた。
屋台の並ぶ方へ一直線に走っていく。
「ロゼッター!!」
弾んだ声が、賑やかな敷地に響いた。
食事をしていたロゼッタ達の元へ、セリカが息を切らせながら駆け寄ってきた。
ロゼッタが驚いたように顔を上げる。
「セリカ?どうしたの?」
「父さんから話があるって。みんなも来て!」
そう言うと、セリカはロゼッタの手を引いて走り出す。
突然のことに戸惑いながらも、ロゼッタ達は顔を見合わせ、その後を追った。
ロベルトとラベートの前に集まると、ロベルトがゆっくりと口を開いた。
「ロゼッタさん。トンネルが開通し、あなたがこの街へ来て――私達は変わりました」
その言葉に、場の空気が静まる。
「ジャンクタウンの一工場だった私のガレージが、今ではこの規模です。
ですが、変わったのは私だけじゃない。この街そのものが、大きく変わろうとしている」
ロベルトは周囲に視線を向ける。
忙しく働く人々、行き交う車両、立ち並ぶ屋台。
かつての荒れた印象は薄れ、活気に満ちている。
「今までは、腕があっても仕事がない者が山ほどいました。私もその一人です」
少しだけ苦笑し、だがすぐに真剣な表情へと戻る。
「ですが今は違う。ここでは、皆が自分の腕を存分に振るえる。
やりたくても出来なかったことが、出来るようになっている」
セリカが静かにその言葉を聞いている。
「噂を聞いて、腕に覚えのある技術者がどんどん集まってきています。だから私は――」
ロベルトは一度言葉を区切り、ゆっくりと続けた。
「ここを“技術者達の楽園”にしたいんです」
その言葉は、決して大げさではなかった。
「自分の作りたいものを作れる場所。挑戦できる場所。
そんな場所にしたい。そして、もうそれは形になり始めている」
ロゼッタ達は黙って聞いている。
「それも、この旧軍事基地を開放し、私に任せてくれた――あなたのおかげです」
ロベルトの視線が、まっすぐロゼッタへ向けられる。
「恩返し、というほどのものではありませんが……」
そう言って、ロベルトは敷地の一角を指差した。
そこには、壁に囲まれた大きな建設中の建物があった。
「――あれを、受け取っていただけませんか」
ロゼッタ達は、一瞬言葉を失った。
あまりにも唐突で、あまりにも大きな申し出だった。
「人も車両も増えても大丈夫なように、余裕を持って作っています。拠点として使ってください」
ロベルトは穏やかな声で続ける。
「整備や装備の面倒は、こちらで引き受けます。あなた達には、思いきり動いてもらいたい」
セリカが、不安と期待が入り混じった表情でロゼッタを見る。
ロゼッタはまだ言葉が出ない。
ただ、その建物を見つめたまま立ち尽くしていた。
それは、ただの建物ではなかった。
仲間と共に進むための場所。
帰る場所。
そして――これからの未来が詰まった場所だった。
続く
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