第7章ー40 新たな乗り手
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ソニアとロベルトが事務所から出てきた。
二人とも穏やかな笑みを浮かべている。
その様子を見て、セリカは自然と胸を撫で下ろした。
(うまくいったんだ)
ロベルトが周囲を見回しながら言う。
「整備にもうしばらくかかります。少しお待ちいただけますか」
ソニアは頷き、すぐに言葉を返した。
「ええ、構いません。……もしよろしければ、この整備場を見て回っても?」
ロベルトは気さくに笑う。
「いくらでも見ていってください」
そしてセリカに視線を向ける。
「セリカ、お客様の案内を頼む」
「わかった」
ロベルトはそのまま踵を返す。
「私は整備の様子を見てきますので」
そう言い残し、ガレージの奥へと消えていった。
ソニアは改めて周囲を見渡す。
広大な敷地に、いくつもの大型ガレージが並んでいる。
その一つ一つから、金属音や機械音が絶えず響いていた。
作業服に身を包んだ人々が忙しなく出入りし、クレーンが動き、工具の火花が散る。
整備場というより、一つの“拠点”のような光景だった。
ソニアが口を開く。
「ここは……整備以外のこともやっているんですか?」
その問いに、セリカは頷く。
「はい。車両の改造もやってます」
歩きながら説明を続ける。
「持ち込まれた武装の取り付けとか、エンジンの調整とか。車両兵器も扱いますし、要望があればそれに合わせてチューンもします」
少しだけ考えるように視線を上げてから続けた。
「あと、最近は試作兵器の開発も始めてますね」
だが、その後の言葉は少し濁る。
「……正直、私もよく分かってないんですよね」
苦笑が漏れる。
「ここ、帰ってくるたびに変わってるんです」
ソニアがわずかに眉を上げる。
セリカは肩をすくめながら続けた。
「ウエストリバータウンに行ってて、戻ってきたら、敷地内に屋台とか出店が増えてて……」
「キャラバンの人達が普通に商談してたりして」
呆れたように、しかしどこか楽しげに笑う。
「もう何の場所なのか、自分でもよく分からなくなってきました」
視線の先では、整備された車両の横で商人達が何かを広げて話し込み、
その奥では別の作業員達が大型部品を運び込んでいる。
整備場であり、市場であり、拠点でもある。
ソニアはその光景を静かに見つめていた。
(……なるほど)
小さく息を吐く。
ただの整備場ではない。
人と物と技術が集まり、循環している場所。
戦場に送り出される力が、ここで生まれている。
そう感じていた。
セリカとソニアが敷地内を歩いていると。前方から一人の男が歩いてきた。
「兄さん?」
セリカがそう言うと、目の前の男 ”ラベート” が彼女たちに気づいた。
ラベートがセリカに声をかけられて足を止め、その隣にいる女性へと視線を向ける。
胸に刻まれたエンブレム――それを認識した瞬間、驚きがその表情に浮かんだ。
(ホワイトファング?……このクランメンバーがここにいるということは――)
頭の中で一瞬にして状況を組み立てる。
前線基地の件。
南部進出。
そして、このガレージの規模。
点と点が繋がる。
そこへ、セリカの声が続く。
「兄さん。こちらホワイトファングのソニアさん。
ウエストリバータウンの戦いで一緒になって、そこで父さんが作った試作車を見て、
欲しいって言ってくれて……お買い上げ頂いたの」
その説明を受けて、ラベートはすぐに一歩前へ出た。
「初めまして、セリカの兄のラベートです。この街のハンターギルドの職員をしております。
この度は父の車をお買い上げ頂き、ありがとうございます」
そう言って、丁寧に頭を下げる。
ソニアもそれに応じて軽く会釈を返した。
「ホワイトファング戦車隊分隊長のソニアです。
こちらこそ、非常に興味深い車両をありがとうございます。
実戦で確認させてもらいましたが、期待以上の性能でした」
その言葉に、ラベートはゆっくりと顔を上げる。
驚きは既に引いていたが、代わりに別の感情が浮かんでいた。
評価された――それも、あのホワイトファングに。
「そう言って頂けると、父も喜びます。
まだ試作段階の物ですが、現場で通用するなら十分価値があります」
セリカが嬉しそうに口を挟む。
「さっき試走もしてくれてたんだよ。すごいって言ってくれてた」
ラベートが小さく笑う。
「それは何よりだな」
だがその視線は、再びソニアのエンブレムへと向いた。
ただの客ではない。
ラベートは一拍置いてから、静かに言葉を選ぶ。
「……それにしても、ホワイトファングの方がここまで来られるとは。
単なる購入以上の用件がありそうですね」
ソニアはその言葉に、わずかに目を細めた。
「鋭いですね」
短くそう返し、否定はしなかった。
その時、ガレージの大きなシャッターがゆっくりと開き、中から試作車が姿を現した。
整備を終えたばかりの車体は、先ほどまでとは別物のように整っており、エンジン音も安定している。
ロベルトが後ろから歩み出てくる。
「お待たせ致しました」
その声に、ソニアがすぐに反応し歩み寄る。
「ありがとうございました。非常にいい状態です」
短くそう告げたあと、続けて言葉を重ねる。
「代金はクラン本部から振り込ませて頂きます」
そして一瞬だけ間を置き、視線をロベルトに向けたまま言った。
「あと、先ほどの件――本部に推薦させて頂きます」
ロベルトはわずかに目を細め、静かに頷いた。
「ありがとうございます。その時は、全力で対応させて頂きます」
余計な言葉はない。
だが、それで十分だった。
ソニアは小さく頷くと、そのまま運転席へと乗り込む。
エンジンが唸りを上げる。
次の瞬間、試作車は土煙を巻き上げながら発進した。
加速は鋭く、それでいて安定している。
荒野へ向けて一直線に走り出すその姿を、セリカ達は無言で見送っていた。
新たな主の手に渡った車は、迷いなく前へ進んでいく。
続く
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