第7章ー39 試作車試乗体験
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ロベルトがソニアに整備場を案内していると、足音と共にセリカが駆け寄ってきた。
「父さん、整備終わったよ」
ロベルトが軽く頷く。
「そうか」
三人はそのまま地上へ戻った。
外に出ると、整備を終えた試作車が陽の下に置かれていた。
先ほどまでの使用感は消え、細部まで手入れされた機体は、どこか別物のような存在感を放っている。
ソニアは迷いなく運転席へ乗り込んだ。
シートに身を沈め、各種計器を一瞥する。
無駄がなく、必要な情報だけが整理されている配置。
キーを回す。
次の瞬間、エンジンが低く唸りを上げた。
整備されたそれは、荒々しさの中に芯の通った力強さを感じさせる。
ソニアはわずかに口元を緩めた。
「……いい音ね」
アクセルを踏み込む。
試作車は砂煙を上げながら、ガレージを飛び出し、そのまま荒野へと向かった。
舗装などされていない不整地。
岩と砂が混じる足場の悪い地形を、車体はまるで意に介さないかのように走り抜けていく。
サスペンションが衝撃を吸収し、タイヤが確実に地面を捉える。
速度を上げても、挙動は安定していた。
(想像以上ね……)
ソニアの目が細くなる。
試しにハンドルを切る。
荒い操作にも関わらず、車体は素直に応答した。
無理に押さえつける必要もなく、思った通りに動く。
(扱いやすい……それでいて、しっかり強い)
自然とアクセルを踏む足に力が入る。
試作車はさらに速度を上げ、荒野を駆け抜けた。
風を切り、地面を掴み、跳ねるように進んでいく。
久しく感じていなかった感覚だった。
戦車では味わえない、運転そのものの楽しさ。
ソニアはわずかに笑みを浮かべる。
「……この感覚、久々ね」
そのまま、さらにアクセルを踏み込んだ。
それに応えるように、試作車は唸りを上げ、荒野のへと駆けていった。
しばらくして、試作車が砂煙を上げながら戻ってきた。
停車と同時にエンジンが唸りを落とす。
運転席のドアが開き、ソニアが降りてきた。
その表情は、先ほどとは明らかに違っていた。
どこか晴れやかで、確かな手応えを掴んだ者の顔だった。
「走破性能は申し分ないですね」
短く、しかし確信のこもった言葉だった。
そしてソニアは続ける。
「連装砲の試射を。できれば……実戦形式で」
その提案に、ロベルトはわずかに目を細めたが、すぐに頷いた。
「構いませんよ。周辺には小型から中型のモンスターが出ます。気をつけて」
試射はすぐに準備された。
運転席にはリンが乗り込み、ソニアは銃座へと上がる。
連装砲のグリップを握り、視界と照準を確認する。
「準備いいですか?」
「いつでもどうぞ」
リンが応えると同時に、試作車は再び荒野へと走り出した。
しばらく走行を続けていると、不意にソニアが声を上げる。
「モンスター発見!」
視線の先――砂地を走る、小型の犬型モンスターの群れ。
数は十数体、こちらにはまだ完全には気付いていない。
「側面に回り込みます」
リンが即座にハンドルを切り、車体を滑らせるように位置取りを変える。
風を切りながら、群れの横へとつけた。
「いくわよ」
短く告げ、ソニアが引き金を引いた。
連装砲が低く唸り、砲弾が連続して発射される。
放たれた弾丸は一直線に群れへと突き刺さり、次々と命中した。
爆ぜる音と共に、モンスターが弾け飛ぶ。
突然の攻撃に、残った個体が一斉に散開し、逃走を始めた。
「追いかけますか?」
リンが冷静に問う。
だがソニアは首を振った。
「いえ……もう少し大きいので試したいです」
そのまま再びアクセルが踏み込まれ、試作車は荒野を駆ける。
やがて、前方に新たな影が現れた。
「……いた」
中型――イノシシ型のモンスター。
分厚い皮膚と筋肉に覆われた体躯、突進力に優れた個体だ。
距離はまだある。
だがソニアは迷わなかった。
「この距離でいきます」
照準を合わせ、引き金を引く。
連装砲が火を吹き、砲弾が一直線に飛ぶ。
数発がモンスターの体表に叩き込まれた。
鈍い衝撃音。
モンスターが顔を上げ、こちらを認識する。
次の瞬間、地面を蹴り、一直線に突進してきた。
「来ます!」
リンの声が響く。
だがソニアは一切慌てない。
むしろわずかに口元を上げた。
「試射にはちょうどいいわね」
迫る巨体を正面に捉えたまま、引き金を引き続ける。
ドンドンドンドン!!
連装砲が唸り、砲弾が途切れることなく吐き出される。
次々と叩き込まれる弾丸が、突進するモンスターの勢いを削いでいく。
それでも止まらない。
さらに距離が詰まる。
だが――決定的な一撃が入った。
同じ箇所に叩き込まれた砲弾が深く食い込み、
内部で炸裂する。
モンスターの脚が崩れた。
勢いのまま前のめりに倒れ込み、地面を大きく抉りながら、完全に動きを止めた。
荒野に静寂が戻る。
ソニアはゆっくりとトリガーから指を離した。
煙を上げる砲口。
その先に横たわる、動かない巨体。
そして、満足げに微笑む。
「……いいわね」
静かに、しかし確信を込めて呟いた。
「この武器――聞いていた通り、この車に合わせて調整されている」
視線を落とし、連装砲に軽く手を添える。
「威力、連射性能、安定性……どれも申し分ないわ」
その評価に、一切の迷いはなかった。
やがて試作車が砂煙を引きながら戻ってきた。
エンジン音が徐々に落ち、車体が静かに停止する。
ドアが開き、ソニアが降りてきた。
その頬はわずかに紅潮し、目にははっきりとした高揚が宿っている。
その表情を見た瞬間、ロベルトは確信した。
――認められたか。
ソニアが一歩踏み出す。
ロベルトが穏やかに問いかけた。
「いかがでしたか?」
ソニアは一度だけ大きく息を吐き、そして笑みを浮かべる。
「……満足のいく性能でした」
迷いのない言葉だった。
「ぜひ、購入させて下さい」
ロベルトも静かに頷いた。
「ありがとうございます」
そのまま二人は事務所へと戻る。
簡素な応接間に再び向かい合い、商談が始まった。
ロベルトが提示した金額を見た瞬間、ソニアの表情がわずかに変わる。
(……安い)
想定していた額より、明らかに安いのだ。
視線を上げ、ロベルトを見る。
「この金額で、よろしいのですか?」
その問いに、ロベルトは静かに答えた。
「あれは試作品です」
「どれだけ良い出来だとしても、私達にとっては“完成品”ではない」
淡々とした言葉だったが、そこには確かな線引きがあった。
「それに――」
わずかに笑みを浮かべる。
「貴方のように、きちんと使ってくれる方に渡るなら、それで十分です」
その言葉に、ソニアは一瞬だけ沈黙する。
そして、静かに背筋を伸ばした。
表情が引き締まる。
「……一つ、お話があります」
ロベルトが視線を向ける。
ソニアはまっすぐに言葉を紡いだ。
「今後、ハンターギルドは南部地域への進出を進めています」
「私達ホワイトファングは、その前線基地構築を任されています」
一拍置く。
「その中で、戦車の整備拠点の確保が大きな課題になっています」
ロベルトは何も言わず、静かに聞いていた。
ソニアの目に、決意が宿る。
「断言はできませんが――」
「クラン本部に対し、この整備場を戦車整備拠点として推薦するつもりです」
その言葉は、ただの提案ではなかった。
信頼と評価に裏打ちされた、正式な意思表示だった。
ロベルトは一瞬だけ目を細め――そして、穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます」
深く、静かな声だった。
「もしそのような話になれば、精一杯やらせていただきます」
「皆の勉強にもなりますしね」
その言葉に偽りはない。
ソニアもまた、ゆっくりと頷いた。
そして――
二人は手を差し出し、固く握手を交わす。
それは単なる売買の成立ではなく。
新たな繋がりが生まれた瞬間だった。
続く
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