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第7章ー37  最前線

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


ジャンクタウンへ向かう車内。


走行音が一定のリズムを刻む中、グレンとソニアは並んで座り、静かに言葉を交わしていた。


「なるほどな……」


グレンが窓の外を眺めながら、低く呟く。


「じゃあ、ホワイトファングは南部地域に進出するってわけか」


その問いに、ソニアは小さく頷いた。


「クラン単独の判断というよりは、ギルドの依頼ですね」


落ち着いた口調で続ける。


「ジャンクタウンとハブ・ゼロがトンネルで繋がったことで、これまで進出が難しかった南部地域へのルートが確立されました」


グレンは腕を組み、視線を戻す。


「物流が通ったってことか……」


「はい」


ソニアは簡潔に肯定した。


「物資、人員、情報。その全てが流れるようになったことで、状況が一変しました」


そして、少しだけ表情を引き締める。


「ただし――南部地域は安定しているとは言えません」


その言葉に、グレンも察したように口元を歪める。


「荒れてるって話は聞いてる」


ソニアは静かに頷いた。


「ええ。さながら戦国時代です」


淡々とした口調だが、その裏にある危険性は重い。


「小勢力が乱立し、絶えず争っている。統一された秩序はなく、力がすべてを決める地域です」


一瞬の沈黙。


エンジン音だけが響く。


「その足掛かりを作るために……ホワイトファングが選ばれた、か」


グレンがそう言うと、ソニアはわずかに視線を細めた。


「そういうことです」


短く、だが確かな答え。


「そして、その先遣として……私達が派遣されました」


グレンは小さく笑う。


「厄介な仕事を押し付けられたな」


その言葉に、ソニアもわずかに口元を緩めた。


「慣れています」


その一言には、場数を踏んだ者の重みがあった。


「むしろ――こういう任務こそ、私達の領分ですから」


その横顔を見ながら、グレンは内心で思う。


(やっぱり別格だな……)


ただ強いだけじゃない。

戦場の全体を見据え、その中で動く者達。


ホワイトファングという存在の大きさを、改めて実感していた。





ホワイトファングの南部地域進出

――その話を聞いたグレンは、ふと現実に引き戻されたように口を開いた。


「その情報……俺達に話していいのか?」


一歩間違えれば機密にもなり得る内容だ。

だがソニアは、特に気にした様子もなく答えた。


「構いませんよ」


あっさりとした返答だった。


「おそらく、ジャンクタウンとハブ・ゼロのギルドには、すでに総本部から通達が出ているはずです」


グレンが眉をわずかに上げる。


「通達?」


「ええ。南部地域前線基地構築の人員募集、という形で」


その言葉に、車内の空気が少し変わる。


「さすがに私達だけでは、前線基地を作るには人手が足りませんから」


現実的な理由だった。


それを聞いたセリカが、ぱっと顔を上げる。


「……それ、父さん忙しくなりそう」


ぽつりと漏れた一言。


グレンが苦笑しながら頷く。


「間違いねぇな」


腕を組みながら続ける。


「戦車クラスの整備ができる場所なんて、

この辺じゃセリカの親父さんのとこくらいだ」


少し考えてから付け加える。


「ハブ・ゼロにも設備はあるが……

規模で言えば、親父さんのとこには敵わねぇ」


その話を聞いて、ソニアが興味深そうに視線を向けた。


「そんなに大きいんですか? セリカさんのお父様のガレージ」


グレンは即答する。


「多分、この地域じゃかなりのもんだと思うぞ」


「戦車の整備も出来るだろうし、修理や改造もやれる。腕のいい技術者も揃ってる」


その評価は、単なる持ち上げではなかった。


横でリンも軽く肩をすくめる。


「まぁ……この試作車と試作砲作るくらいだからね」


事実だけを淡々と述べる。


それが逆に説得力を持っていた。


セリカは少しだけ照れたように笑いながら、無線機を手に取る。


「エレナさん。ジャンクタウンと通信できる距離に入ったら、

父さんに“お客様連れて行く”って伝えてもらえますか?」


すると、すぐに無線から声が返ってきた。


「メールなら、もう送ったわよ」


あまりにも早い対応に、セリカが目を丸くする。


「さすがエレナさん……ありがとうございます!」


その声には素直な尊敬が滲んでいた。


エレナは軽く笑い混じりに答える。


「でっかい商売になりそうだからね」


その一言で、場の空気が少しだけ和らぐ。


だが同時に――


これから始まるものが、ただの取引ではないことも、誰もが感じていた。




エレナとの無線が途切れ、車内に再びエンジン音だけが満ちる。


しばらくして、リンがふと前を向いたまま口を開いた。


「ソニアさん……よければ、最前線ってどんな感じか教えてもらえますか?」


興味と、少しの緊張が混じった声だった。

ソニアはその問いに、少しだけ意外そうな表情を見せ――すぐに苦笑する。


「……実は、私達もまだ行ったことがないんです」


その言葉に、リンが思わず視線を向ける。


「え?」


ソニアは肩をすくめる。


「私達の部隊の戦車では、最前線のモンスターの攻撃に耐えられません」


淡々とした口調だが、その内容は重かった。


「ホワイトファングの中でも、いくつかある部隊の中でさらに認められて

……ようやく“最前線用”の戦車に乗れるんです」


少しだけ遠くを見るような目になる。


「私達はまだ、その段階には届いていません」


その言葉を聞いた瞬間――

リンは言葉を失った。


(……は?)


頭の中で整理が追いつかない。


今目の前にいるのは、あのホワイトファングの部隊。

その中でも戦車を任されている精鋭達。


その彼女達ですら、“最前線には全く届いていない”


リンは思わず前方を見つめる。


(最前線用の戦車って……一体どんな代物なの)


自分達が見てきた戦車。

それだけでも十分すぎるほどの火力と防御力だった。


だが、その上がある。

しかも“別格”として存在している。


想像しようとするが――

まるで輪郭すら浮かばない。


どれほどの装甲なのか。

どれほどの火力なのか。

どんなモンスターと戦っているのか。


何一つ、実感として掴めなかった。


その横で、ソニアが静かに続ける。


「ただ……噂では聞きます」


リンがわずかに顔を向ける。


「一撃で、それこそ町を消し飛ばすモンスターや、地形そのものを変えるような存在がいる、と」


軽く息を吐く。


「だからこそ、それに対抗できる装備と人材が必要になるんです」


車内が静まり返る。

さっきまでの戦いが、どこか遠い出来事のように感じられた。


リンはハンドルを握る手に、わずかに力を込める。


(……上があるどころじゃない)


自分達が立っている場所は、まだ入口でもない。


そう突きつけられたような気がしていた。




続く

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