第7章ー36 ウエストリバータウン防衛戦30
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
セリカとソニアがそんな話をしている最中、
ギルドの方からグレンが戻って来た。
視線を巡らせたグレンは、ホワイトファングの面々が、
一台の車を囲んでいるのを見て、軽く眉を上げる。
「どうしたんだ?」
その問いに、セリカが少し嬉しそうに振り向いた。
「ソニアさん達が、この試作車を褒めてくれてて……」
それを聞いたグレンは、一瞬だけ目を丸くした後、すぐに口元を緩める。
「あのホワイトファングがか。そりゃあ親父さん喜ぶな」
そう言って車体を軽く叩きながら、からかうように続けた。
「お墨付きってやつだ。これは高く売れそうだな」
冗談めかした言い方だったが、その評価は本気だった。
その言葉に、ソニアが興味深そうに視線を向ける。
「これ……売り物なんですか?」
セリカは少し考えるようにしてから、頷いた。
「まぁ、売り物と言えば売り物かな。値段は父さんが決めるけど……」
そして車を軽く見上げる。
その言葉に、ホワイトファングのハンター達が、
「値段次第だが、俺はアリだと思うぜ。思わぬ掘り出し物だ」
さらに別のハンターが車体の下を覗き込みながら言う。
「汎用性が高いなこれ。走破性能もよさそうだ。偵察、歩兵随伴、火力支援……」
少し笑って続ける。
「威力偵察にも使える。使い道が豊富だね」
その評価に、セリカは少し戸惑いながらも、確かな手応えを感じていた。
そしてソニアも腕を組みながら静かに言う。
「この連装砲、複数の砲弾に対応しているのが大きいですね。
速度と走破性能を活かせば……中型クラスまでなら十分狩れると思います」
一度視線をセリカに戻す。
「最終判断はクランになりますが……この車、私は欲しいですね」
その一言は、軽くはなかった。
最前線のクラン、その分隊長が「欲しい」と言う意味。
それを受けて、セリカは少しだけ息を吸い――思い切って口を開いた。
「もし時間があれば……父のガレージに来ませんか?」
周囲の視線が集まる。
「ジャンクタウンです。この街から近いですし……」
ソニアは一瞬だけ考えるように目を細め、すぐに小さく頷いた。
「いいですね」
その声には、はっきりとした興味が乗っていた。
「値段の話もありますが……何より」
ソニアの視線が、試作車からセリカへと移る。
「この車と武装を作ったお父様と、そのガレージを見てみたいです」
その言葉を聞いた瞬間、セリカの表情がぱっと明るくなった。
自分の作ったものが認められたこと。
そして、それを作った父に興味を持ってもらえたこと。
それが何より嬉しかった。
ソニアが手元の情報機器を操作しながら、何やら短く的確なやり取りを始めていた。
その様子を横から見ていたエレナが、ふっと感心したように呟く。
「さすが高ランククラン……いいもの使ってるわね」
その言葉に、ミレイアが興味津々といった様子で顔を寄せる。
「姉さん、あれ高いの?」
エレナは軽く肩をすくめる。
「高いわよ。その分性能も桁違いだけどね」
視線をソニアの機器へ向けたまま続ける。
「通信の安定性、暗号化、同時接続数……多方面に部隊を展開する高ランククランなら、ああいう装備は必須ってこと」
少しだけ笑って付け加える。
「逆に言えば、あれを当たり前に使ってる時点で、私たちとは格が違うってことね」
ミレイアは「へぇ……」と感心したように頷いた。
やがて通信を終えたソニアが顔を上げる。
周囲のハンター達に視線を巡らせ、簡潔に告げた。
「本部の許可が出ました」
「これより私は、ジャンクタウンへ向かいます」
その言葉に、場の空気がわずかに引き締まる。
続けてソニアは、残る部隊へと指示を出した。
「部隊はこの場で待機。復興支援、補給、整備、及び休養を」
無駄のない指示だった。
それを受けて、ホワイトファングのハンター達が一斉に応じる。
「了解」
揃った声は短く、それでいて重みがあった。
統率の取れたその様子に、ロゼッタ達は改めて高ランククランの実力を感じていた。
ロゼッタが周囲を見渡し、ひとつ頷いた。
「じゃあ……私達もジャンクタウンへ帰ろうか」
その一言で、皆が一斉に動き出す。
武器の確認、車両の点検、荷物の積み込み――それぞれが慣れた手つきで準備を進めていく。
そんな中、近くにいた漁師達が声をかけてきた。
「姉ちゃん達、ありがとよ!」
日に焼けた顔に大きな笑みを浮かべている。
「本当ならエビやカニを振る舞いてぇとこなんだがよ……
ギルドが原因調査の為に、河で捕れた物は食うなってよ」
少し残念そうに頭をかきながらも、続けた。
「また来てくれや。その時は腹いっぱい旨いもの食わせてやる」
ロゼッタ達もそれに笑顔で応じる。
その横で、ギルド職員が書類を抱えながら声をかける。
「報酬や素材の分配については、決まり次第連絡しますので」
それを聞いたグレンが、軽く手を上げた。
「ジャンクタウンのギルドに、俺宛で回してくれ」
「了解です」
事務的なやり取りを終えると、グレンは振り返り、ロゼッタ達へ声を張る。
「よし、帰るぞ」
そして、素早く指示を飛ばした。
「試作車の運転はリン。お客様を乗せるんだ、無茶な運転はするなよ」
リンが「了解」と短く返す。
「同乗はセリカ。それと……色々聞きてぇ。俺も乗る」
そう言ってグレンは軽く笑う。
「残りはハンヴィだ。運転はエレナ、頼む」
「わかったわ」
エレナが肩をすくめながら応じた。
そのやり取りを聞いていたソニアが、ふと視線を向ける。
「あのハンヴィも、あなた方のですか?」
わずかに興味を含んだ声だった。
「いい車ですね」
その言葉に、セリカがすぐに答える。
「あれも、うちで整備したものです」
ソニアは一瞬だけ目を細め――納得したように頷いた。
「そうですか……」
そして、穏やかな笑みを浮かべる。
「ますます楽しみになってきました」
その言葉には、ただの興味以上のものが込められていた。
これから向かうジャンクタウン。
そして、そこにある“セリカの父の工房”。
戦場を知る者達が、その価値を感じ始めていた。
そして、今回の襲撃の真相は……
続く
この回で、ウエストリバータウン防衛戦は終わりです。章自体はまだ続きますのでよろしくお願いします。
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