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第6章ー42  廃工場地域

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


朝食を終えると、三人は部屋へ戻り装備を整えた。


武器の点検。

装備の確認。


ハンターとしての一日が始まる。


ギルドへ向かう道すがら、ダリアが依頼書を軽く振って見せた。


「最初は軽めだな。変異体の討伐」


新人にいきなり大仕事は回ってこない。

それでも、実戦であることに変わりはない。


リコリスは歩きながら、二人の装備をじっと見ていた。


昨日から気になっていたのだ。


剣闘士の装備とは、あまりにも違う。


ダリアは相変わらず巨大な大剣を背負っている。

それは闘技場でも通じそうな威圧感があった。


しかし、それ以外が違う。


肩当て。

胸当て。

腰の装甲。


鈍い光沢を持つ、独特の質感。


金属とも、骨とも違う。


「それ……」


リコリスが指さす。


「何で出来ていますの?」


ダリアが少し得意げに笑う。


「これか?」


肩を叩く。


コン、と乾いた音がする。


「前に農地で討伐した、巨大変異サソリだ」


リコリスの目が少し大きくなる。


「サソリ?」


「外殻が硬くてな。装備に向いてる」


確かに、よく見ると形が自然物に近い。

節のような模様。

曲線のライン。


生き物の甲殻をそのまま削り出したような装甲だった。


オルレアも自分の槍を軽く持ち上げる。


槍先が黒く光る。


鋭く、どこか禍々しい。


「これも同じサソリ」


リコリスが目を細める。


「槍ですの?」


「尾の毒針」


短い説明。


だが、それで十分だった。


確かに形状がそれらしい。


細く、鋭い。


「毒は?」


「任意で流せる様に加工した。強化な麻痺毒」


さらりと言う。


剣闘士の装備とは真逆だった。


闘技場の装備は、見せるための武具。


金装飾。

色彩。

威圧。


観客の視線を集めるための華やかさ。


だが、二人の装備にはそれがない。


あるのは――


生き残るための機能だけ。


リコリスが少し感心したように言う。


「実用一点張りですのね」


ダリアが肩をすくめる。


「ハンターは見世物じゃねぇからな」


そして続ける。


「あと、もう一つ」


指を立てる。


「討伐報酬とは別に、素材の金が入る」


リコリスが首を傾げる。


「素材?」


オルレアが補足する。


「変異体は全部が金になる」


爪。

牙。

甲殻。

毒腺。

筋肉。

骨。


研究所。

鍛冶屋。

薬師。


様々な場所が素材を求めている。


ダリアが笑う。


「場合によっちゃ、討伐報酬より高い」


リコリスが少し驚いた顔をする。


「そんなに?」


「でかい奴や珍しいやつならな」


ダリアは自分の肩当てを叩く。


「だから俺達みたいに、防具に加工する奴もいる」


オルレアが槍をくるりと回す。


「武器にもなる」


リコリスはその装備を改めて見た。


確かに合理的だ。


倒した敵が、そのまま自分の力になる。


闘技場では考えられなかった発想だった。


剣闘士は、すべて与えられる。


武器も。

装備も。

食事も。


だがハンターは違う。


倒したものが、次の戦いを支える。


「面白い世界ですわね」


リコリスが静かに笑う。


その目は、もう戦士の目だった。


三人はギルドを出る。


初めての依頼。

初めての狩り。


そして――


ハンターとしての最初の一歩が、静かに始まろうとしていた。





三人は街の外へ出て、しばらく歩いた先で目的地に辿り着いた。


郊外の廃工場地帯。


かつて巨大な工業地帯だった場所。

今では、崩れた建物と錆びた鉄骨が広大な範囲に散らばる死んだ土地になっていた。


工場だった建物の残骸が、まるで墓標のように立ち並んでいる。

折れ曲がった煙突。

崩れた屋根。

蔦と錆に覆われた巨大な配管。


風が吹くたび、どこかで金属がきしむ音が響く。


リコリスは周囲を見渡した。


「広いですわね……」


思っていた以上だった。


視界の先まで、同じような廃工場が続いている。


ダリアが肩を回しながら答える。


「この街のハンターの定番ポイントだ」


オルレアも周囲を警戒しながら続ける。


「俺達の様な新人はもちろん」


そして少し間を置き、


「場所によっては、ベテランも来るらしい」


リコリスが不思議そうな顔をする。


「同じ場所なのに?」


ダリアが笑う。


「危険度が場所で全然違う」


そう言って指をさす。


遠くの区域。


建物の崩壊が激しく、黒い穴のような入り口がいくつも見える。


「あっちが深区域」


次に、今いる辺りを示す。


「ここは浅い区域」


新人の依頼はこの辺りが多い。


変異ネズミ、変異犬など

小型の変異体。


運が悪ければ中型が出る程度。


だが奥へ行けば話は変わる。


大型変異体。

機械獣。

警備ロボ。


時にはハンターのチームが壊滅することもある。


リコリスは廃工場を見つめながら言った。


「どうしてこんな場所に変異体が?」


オルレアが答える。


「噂で聞いた程度だけど」


ダリアが引き継ぐ。


「この地域の地下」


足元を軽く踏む。


「旧文明の研究所か工場があるらしい」


リコリスの目がわずかに細くなる。


「旧文明……」


闇市場。

生体兵器。

再生カプセル。


最近聞いた話が頭をよぎる。


ダリアは続ける。


「そこから変異体や機械獣が湧いてるって話だ」


実際に地下へ入ったハンターは少ない。


理由は単純だった。


オルレアが言う。


「汚染がひどい」


その言葉だけで十分だった。


空気。

水。

土壌。


この地域は旧文明の事故か戦争か、原因は不明だが深刻な汚染を受けている。


長時間の探索は危険すぎる。


防護装備も必要になる。


ダリアが肩をすくめる。


「だから大規模探索はされてない」


何度か試みられたことはある。


だが結果は――


高額な費用。

大きな被害。

成果はわずか。


割に合わない。


結局、今は表層に湧く変異体を狩るだけの場所になっている。


リコリスは少し笑う。


「つまり」


ハルバードを肩に担ぐ。


「私たちの仕事は」


ダリアが頷く。


「湧いてくる連中の間引き」


オルレアが静かに言う。


「街に近づく前に倒す」


リコリスはゆっくり息を吐いた。


空気は鉄と油の匂いが混じっている。


闘技場とはまるで違う。


観客もいない。

歓声もない。


ただ、荒れ果てた廃墟と――


潜む敵だけ。


リコリスは静かに呟いた。


「いい狩場ですわね」


その言葉にダリアが笑う。


「気に入ったか?」


リコリスはハルバードを軽く回す。


「ええ」


そして少し目を細めた。


「血の匂いがしますもの」


その瞬間。


オルレアの槍がわずかに動く。


「来る」


錆びた鉄骨の影。

崩れた工場の奥。


何かが――動いた。



続く

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