第6章ー34 闇市場強襲作戦7
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
瓦礫だらけの大広間。
焦げた匂いの中で、奇妙な談笑が始まっていた。
ダリアが肩をすくめる。
「……あんたなら大丈夫だろ」
飾らない一言。
それだけで十分だった。
リコリスは顎に手を当て、興味深そうに目を細める。
「で、その“ハンター”ってのは具体的に何をするんだ?」
さっきまでの混乱は薄れ、純粋な好奇心が前に出ている。
ダリアが答える。
「さっきも言ったが何でも屋だ。依頼制だな。討伐、護衛、探索。危険な仕事が多い」
リコリスはハルバードを机に立て掛けたまま、顎を上げる。
「で?」
口元に獰猛な笑み。
「私もやれるのか、その“ハンター”っての」
ダリアは少しだけ考え――そして真顔になる。
「やれる」
即答。
「だが、条件がある」
リコリスの片眉が上がる。
「条件?」
オルレアが一歩前へ出る。
静かな声。
「まず一つ。依頼人は絶対だな」
リコリスが鼻で笑う。
「当然だろ。金ヅル殺してどうすんだ」
「違う」
ダリアが言う。
「気に入らなくても、だ」
一瞬、間。
リコリスの目が細くなる。
「あの船の豚みてぇなのでも?」
「依頼人ならな」
沈黙。
リコリスはワインを一口飲み、舌打ちする。
「……つまらん」
だが否定はしない。
ダリアは続ける。
「二つ目。無意味に殺さない」
「無意味、ねぇ」
「剣闘士じゃない。見世物でもない。
殺しは手段であって目的じゃない」
リコリスの目がわずかに揺れる。
かつては、殺すことそのものが興行だった。
歓声のための死。
オルレアが補足する。
「必要なら斬る。だが、選べるなら斬らない」
長い沈黙。
リコリスがハルバードの刃を見つめる。
「……選べる、か」
三つ目をダリアが告げる。
「自分の責任で動くこと」
「どういう意味だ?」
「暴れれば俺達も巻き込まれる。
仲間になるなら、背中を預けられる奴じゃないと困る」
真っ直ぐな目。
試す目ではない。
本気の目。
リコリスはその視線を受け止める。
闘技場ではなかったもの。
信頼。
仲間。
背中。
しばらくの沈黙の後――
リコリスは大きく息を吐いた。
「面倒くせぇな、ハンターってのは」
だが、口元は笑っている。
「つまり、好き勝手暴れるなら一人でやれってことだろ?」
「そうだ」
即答。
数秒。
リコリスはハルバードをくるりと回し、石床に石突きを打ちつける。
「……いいだろ」
低い声。
「依頼人は殺さねぇ。無意味には斬らねぇ。仲間なら背中は守る」
ニヤリと笑う。
「その代わり」
ダリアを見る。
「強ぇ奴がいたら、止めるなよ?」
ダリアも笑う。
「依頼の範囲内ならな」
オルレアが小さく息をつく。
「まずはギルドに登録だ」
「ギルド?」
「ハンターの管理組織だ」
リコリスは肩を回す。
「組織ってのは好きじゃねぇが……」
少し考え。
「まぁ、あの頃の鎖よりはマシか」
静かな空気。
もう殺気はない。
代わりにあるのは――未知への高揚。
「要するに、そのギルドに登録して、依頼を受けて、
闘技場で戦ったようにバケモノをブチのめせばいいんだろ?」
「まぁ、そうなんだがな」
ダリアが呟く。
オルレアが続ける。
「最近は銃火器が主流だ。距離を取って制圧する戦い方が増えた、敵にも火器持ちがいる」
リコリスの眉が上がる。
「銃、か……」
「だがな」
ダリアがにやりとする。
「近接でまともに戦える奴は少ない」
「ああ」
オルレアも頷く。
「接近戦はリスクがでかい。訓練にも時間がかかる。だから避けられる」
リコリスがハルバードを軽く回す。
空気が唸る。
「つまり、私らみたいなのは珍しいってわけか」
「珍しい、だから歓迎される」
ダリアは即答する。
「現に、剣闘しか知らなかった俺達が何とかやってる」
リコリスがふっと笑う。
「あんたらが、なぁ」
少しだけ意地の悪い目。
「闘技場じゃ脳筋代表みたいだったのに」
「うるせぇ」
ダリアが苦笑する。
その軽口が、昔と変わらない。
リコリスはしばらく二人を眺める。
暗い目ではない。
縛られていない。
戦うためだけの存在でもない。
それでも、刃は鈍っていない。
「……確かにな」
ぽつりと言う。
「あんたらがやれてるんなら、大丈夫だろ」
そして二本、転がっていた瓶を拾い上げる。
「おい、飲め」
ダリアが受け取る。
オルレアにも投げる。
リコリスが椅子から立ち上がった。
三人、瓦礫の上に立ったまま。
「剣闘士はなくなった」
リコリスが言う。
「だが、私達は生きてる」
ダリアが瓶を掲げる。
「好きに生きるためにな」
オルレアも静かに持ち上げる。
リコリスが口角を吊り上げる。
「じゃあ――」
少しだけ、照れくさそうに。
「新しい舞台に、乾杯だ」
三つの瓶が、軽くぶつかる。
乾いた音。
地下の崩れた大広間に、ささやかな祝杯の音が響く。
リコリスが豪快に飲み、息を吐く。
口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。
戦士の笑みでも、貴婦人の微笑でもない。
もっと静かで、深いもの。
そのとき――
なぜか不意に思い出された。
南部組織のボスの低い声。
「お前さんは自由だ」
自由。
あのときは意味が分からなかった。
だが今は違う。
選べる。
戦うかどうかも。
どこへ行くかも。
誰と立つかも。
彼の言う ”自由” はきっと意味が違うのだろう
しかし
胸の奥の重石が、すっと溶ける。
「……そうか」
小さく呟く。
「自由、か」
なぜか。
晴れやかだった。
ずっと閉じ込められていた檻の扉が、音もなく開いたような感覚。
「少し待ってろ」
そう言って、瓶を傾ける。
残ったワインを一気に飲み干す。
空になった瓶を静かに置く。
乱れた髪を指で梳き、整える。
ドレスの皺を払い、襟元を正す。
呼吸をひとつ。
背筋が伸びる。
そこに立っているのは――
荒々しく酒をあおっていた戦士ではない。
力強く。
誇り高く。
優雅な貴婦人。
だがその内側には、確かな炎が宿っている。
リコリス。
死がつきまとう花。
死人花と呼ばれた女。
だが――
赤いリコリスの花言葉は違う。
情熱。
独立。
そして、再会。
かつて闘技場に咲いた血の花は、
今、まったく別の意味で満開になろうとしている。
リコリスはダリアとオルレアを見渡す。
「では、お二方」
わずかに口角を上げる。
「私をどこへ連れて行ってくださるのかしら?」
その目はもう、過去に縛られていない。
死人花は枯れなかった。
時代を越え、再び咲いた。
今度は、自らの意思で。
続く
今まで出てきました剣闘士は、比較的まともな人物だったので、リコリスはぶっ飛んたキャラにしようと思い、この2面性を持ったキャラにしました。
ダリアとオルレアでさえ、私はこの世界では、常識人寄りだと考えています(笑)
この花をより美しく咲かせられるよう頑張っていきますので、よろしくお願いします。
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