第6章ー29 闇市場強襲作戦2
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
中央ステージにスポットライトが集まる。
ざわめきが波のように引き、
司会役の男が大仰に両手を広げた。
「ご来場のお客様、お待たせ致しました。
――本日の“目玉商品”となります」
重い機械音。
舞台中央の床がせり上がる。
現れたのは――棺桶のような巨大な箱だった。
黒い金属とも石ともつかぬ外殻。
表面には幾何学模様が刻まれている。
直線と曲線が絡み合い、意味を持つようで持たない、
明らかに現代技術ではない意匠。
旧文明品。
上部の一部は透明素材になっており、
内部が見える構造になっている。
観客が息を呑む。
そして、映像が巨大モニターに映し出される。
箱の中――
そこに眠っていたのは、長い黒髪の女性。
真っ直ぐ落ちた黒髪は、胸元あたりから柔らかくカールしている。
肌は白く、まるで作り物のように整った顔立ち。
まぶたは閉じられ、静かに眠っている。
だが、その顔を見た瞬間。
ダリアの呼吸が止まった。
「……」
喉が、わずかに震える。
「あれは……」
オルレアも、目を見開く。
モニターに映るその女。
忘れるはずがない。
血と砂の闘技場。
歓声と罵声の中で、刃を交えた相手。
別の剣闘士団の最強剣闘士。
観客から二つ名で呼ばれていた女。
ダリアの唇が、かすかに動く。
「……リコリス」
オルレアは、低く呟く。
「……死人花」
あの異名。
漆黒の髪が舞うたび、相手が倒れていった。
容赦なく、優雅に、そして圧倒的に強かった。
だが――
あの戦いの後、彼女は死んだはずだった。
近接班のリーダーが低く言う。
「……墓戻りか」
墓から戻った者。
そう呼ばれる存在がある。
旧文明の技術で蘇生された兵器。
あるいは、改造された“何か”。
司会役の声が響く。
「旧文明の機械棺桶! そしてその中身は――伝説級の闘士!」
歓声が爆発する。
「完全調整済み! 戦闘適性は保証付きだ!」
彼女は剣闘士でもない。
商品だ。
そして
兵器だ。
ダリアの拳がわずかに震える。
あの頃、命を懸けて戦った相手。
尊敬すらしていた強敵。
それが――売り物にされている。
オルレアが静かに言う。
「予定変更も視野に入れるべき」
「ああ、嫌な予感がする」
近接班リーダーは短く答える。
「誰かこの事を本部に伝えてくれ」
傍受されることを防ぐ為、無線機類は一切持ち込んで無い。
「慌てるな。予定通り戦力を削る。 あれの確保はその後だ」
だが全員が理解していた。
旧文明技術はブラックボックスだ。
しかも、墓戻り
あの棺が開けば――
ここは地獄になる可能性を秘めている。
眠っているのか。
封じられているのか。
それとも――
“目覚める”のか。
鐘が再び鳴る。
入札が始まる。
闇の祝祭は、最高潮に達した。
上階バルコニー。
重厚な椅子に腰を下ろす男が、腕を組んで棺を見下ろしていた。
南部最大級の犯罪組織のボス。
金と暴力で成り上がった男だが、
その目は獣のように冷えている。
「……噂に聞いて来てみたが」
低く、吐き捨てるように言う。
「とんでもない物を売ってやがるな」
隣に控える部下が、興奮気味に囁く。
「ボス、あれがあれば敵対組織の壊滅は容易いのでは?」
巨大モニターに映る“死人花”。
戦闘記録が流れる。
試合数は数百、それは同時に強さの証。
会場がどよめく。
だがボスは、渋い顔を崩さなかった。
「……あの手の代物は気をつけた方がいい」
静かな声。
「下手をすれば、ウチが壊滅する」
部下が驚く。
「しかし――」
ボスは棺をじっと見据える。
「何度も言わせるな」
短い言葉だが、重い。
「旧文明品の生体兵器で痛い目を見た話は、山ほど耳にしてきた」
制御不能。
暴走。
命令拒否。
予期せぬ自己進化。
「完全調整済? 笑わせるな」
鼻で笑う。
「旧文明の代物を、ここの連中が完全に従わせる事が出来ると思うか?」
競りの開始を告げる鐘が鳴る。
金額が跳ね上がっていく。
ボスは背もたれに体を預けた。
「こいつはダメだ、リスクが高すぎる」
部下はもう何も言わなかった。
「あれ一つ買うより、軍の横流し品を押さえた方が堅実だ」
「分かってるものがいいんだよ。
何より持ち主を裏切らねぇ」
視線を外す。
「得体の知れねぇ化け物は、飼い主を選ばねぇ」
棺の内部で、
黒髪がわずかに揺れた様な気がした。
ボスはそれを見て、さらに顔をしかめる。
「……あれは兵器じゃねぇよ」
小さく呟く。
「災厄だ」
「それにな……何だか嫌な予感がするんだよ」
小さく呟く。
理屈ではない。
長年、修羅場を潜った者だけが持つ感覚。
「武器商人を呼んで来い」
視線を部下に向ける。
「とっとと買って、ずらかるぞ」
部下はすぐに頷き、走り去った。
その言葉を、下階で
ダリア達が聞いていた。
冷静な判断を行う者がいる一方で、
オークションは狂気は加速していた。
「7000!」
「7500!」
「8000!」
数字が跳ね上がるたびに、地下空間がざわめく。
歓声と罵声が交錯し、
観客達の目は血走っている。
モニターに映る黒髪の女――オルフェ。
眠ったまま、微動だにしない。
「9000!」
空気が止まる。
さらに、静かな声が落ちた。
「1万」
ざわめきが波のように広がる。
その声の主は、上階バルコニー中央。
細身の男。
整ったスーツ。
冷たい瞳。
金さえ払えば善悪問わず売ると噂される、大物兵器商人。
死の商人。
誰もが知っているが、誰も本名を呼ばない男。
沈黙。
司会が声を張り上げる。
「……1万! 他に!」
誰も上げない。
欲望はあっても、理性が勝った。
「金貨1万で――落札!」
槌の音が響く。
会場から、ため息が漏れた。
「さすがに跳ね上がったな……」
「強さは折り紙付きだ」
「加えてあの美貌……」
笑い声が混じる。
「兵器というより、美術品だな」
「側に置いておくだけで価値がある」
欲と品評。
人間を“物”として語る声。
ダリアの指が白くなる。
オルレアは視線を逸らさない。
兵器商人は静かに立ち上がった。
拍手もせず、興奮もせず。
ただ確認するように司会へ告げる。
「商品の実力を見たい」
ざわめきが止まる。
司会が一瞬戸惑う。
「……と、申しますと?」
「兵器だろう?」
男は淡々と続ける。
「動作確認だ。商品説明には“完全保存・戦闘能力維持”とある」
会場がざわつく。
「この場でか?」
「いや、危険だろ……」
兵器商人は薄く笑う。
「商品のお披露目といきたいが、
奥で構わない。制御下で、簡単な実演を」
司会は迷ったが――
金は支払われる。
断る理由はない。
「……承知しました。搬送します!」
棺桶型カプセルが、ゆっくりと奥へ運ばれていく。
地下空間のさらに奥。
簡易試験区画。
ダリアの鼓動が速くなる。
オルレアが小さく囁く。
「起動させる気か……最悪の展開になるかもな」
近接班リーダーが低く言う。
「ギルドへの合図は?」
まだだ。
だが――
棺の内部で。
黒髪が、ゆらりと揺れた。
瞼が、わずかに動く。
暗い瞳が、光を捉えた。
眠りではない。
あれは――
目覚めだ。
続く
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