第6章ー27 合宿終了、そして次の戦い
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
合宿最終日。
「――ラスト一本!」
ダリアの声が坂道に響く。
若手達が一斉に駆け出す。
初日は途中で倒れ込んでいた者達が、今は最後まで足を止めない。
息は荒い。だが、膝は折れない。
赤毛の少女も、歯を食いしばって走り切る。
ゴール。
全員が肩で息をしながらも、立っている。
誰一人、脱落しなかった。
オルレアが小さく笑う。
「上出来だな」
ダリアは腕を組み、静かに頷いた。
「当たり前だ」
だがその目は、どこか誇らしい。
数日後。
ギルド本部の大扉が開く。
整列した若手達が戻ると、ロビーがざわついた。
「……見ろよ」
「身体つき変わったな」
「青臭さが抜けたな」
ベテランハンター達が腕を組み、値踏みする。
「いい身体になったじゃねぇか」
「顔つきも締まってる」
若手達は照れながらも胸を張る。
赤毛の少女が小声で言う。
「姐さんのおかげです」
「聞こえてるぞ」
ダリアがぼそりと返す。
周囲が笑う。
あるベテランが自分の腹を叩いた。
「……俺も鍛え直すか」
「坂道付きらしいぞ」
「それは勘弁してくれ」
笑いが広がる。
二階の回廊。
長身の男が腕を組み、その様子を見下ろしていた。
ギルドマスターと監察官だった。
隣の監察官が言う。
「成果は明白ですね」
「ああ」
低く、落ち着いた声。
「目が違う」
ギルドマスターはゆっくり階段を降りる。
若手達の前に立つと、その場の空気が自然と引き締まった。
「よくやった」
短い言葉。
だが重みがある。
若手達が一斉に背筋を伸ばす。
彼はダリアとオルレアを見る。
「報告は受けている。脱落者ゼロ。怪我も最小限」
「……走らせただけだ」
ダリアが答える。
ギルドマスターは小さく首を振る。
「それでいい」
「生き残る基本を叩き込んだ」
その視線はまっすぐだ。
「我々が欲しているのは、英雄ではない」
「帰ってくる者だ」
ロビーが静まり返る。
そして続ける。
「次回の合宿から――君達には教官役を務めてもらう」
ざわりと空気が揺れる。
「正式に、だ」
赤毛の少女がぱっと顔を上げる。
「姐さんが教官!?」
「……聞いてない」
ダリアが眉を寄せる。
オルレアは肩をすくめる。
「似合ってるぞ、教官殿」
「拒否権は?」
ダリアが問う。
ギルドマスターは、わずかに口元を緩めた。
「推薦という名の任命だ」
低く、しかしどこか楽しんでいる響き。
「君達は、強い」
「だがそれ以上に――生き残っている」
視線が若手達へ向く。
「その価値を伝えられる者は、多くない」
ダリアはしばらく黙り込む。
赤毛の少女の、期待に満ちた目が刺さる。
やがて、小さく息を吐く。
「……坂道は増やす」
「えぇぇぇ!?」
悲鳴。
ギルドマスターが低く笑った。
「構わん。死なせるな」
「当然だ」
短い応答。
男は満足そうに頷く。
「温泉宿は“戦士再生施設”として正式運用に入る」
「君達は、その柱だ」
重い言葉だ。
だが、どこか誇らしい。
ロビーに笑いと活気が戻る。
ダリアは腕を組みながら思う。
(今度は、守る側か)
闘技場で生き抜いた者が、
次は生き残らせる者になる。
ギルドの空気が、少し変わった。
夜。
ギルド本部、最上階。
2人はギルドマスターに呼び出された。
重厚な扉の前に立つ二人。
「入れ」
低く、落ち着いた声。
室内は広く、壁には地図と報告書。
机の上には盗掘団の記録が広げられている。
ギルドマスターは椅子に腰掛けたまま、二人をまっすぐ見た。
「夜分に済まない。合宿ではご苦労だった」
ダリアが答える
「それで、こんな時間に呼んだのは?」
「単刀直入に言う。盗掘団の件だ」
「捕縛した連中の取り調べは終わった」
ダリアは黙って聞く。
「盗掘そのものは問題ない。
我々も名前が違うだけで、似たようなものだ。
だが問題は別にある」
男は書類を一枚、指で押さえた。
「闇市場だ」
空気がわずかに重くなる。
「盗品、違法武器、禁制品……」
一瞬、言葉を選ぶ。
「奴隷まで扱う」
オルレアの目が細くなる。
「随分と派手だな」
「ああ」
ギルドマスターは頷く。
「捕らえた者の一人が白状した。近々、闇市場が開かれる」
机に地図が広げられる。
「場所は旧鉱山跡。地下空洞を利用している」
「ギルドとしては、そこを強襲する」
はっきりとした宣言。
狭い通路、袋小路、分岐の多い構造。
ダリアが短く言う。
「閉所戦闘か」
「その通り」
ギルドマスターの視線が鋭くなる。
「銃器は危険だ。近接戦闘になる」
静かな沈黙。
「選抜制だ。近接戦闘に長けた者を集める」
そして、二人を見る。
「君達にも加わってもらう」
命令ではない。だが断れない響き。
オルレアが肩を鳴らす。
「教官業の次は殴り込みか」
「そうだ」
ギルドマスターは言う。
「君達が適任と判断した」
ダリアは地図を見つめる。
複雑な坑道。
視界の悪い空洞。
「規模は?」
「精鋭十名。最小で最大の効果を狙う」
「出入口は別の班が封鎖する、アリの子一匹逃しはしない」
「捕縛優先か」
「可能な限りな」
ギルドマスターの声が低くなる。
「特に奴隷商人は絶対だ」
短い沈黙。
二人の目が変わる。
オルレアが小さく息を吐いて頷く。
それを横目で見て、ダリアも頷く。
「わかった、やるよ」
「助かる」
ギルドマスターが立ち上がる。
長身の影が机越しに伸びる。
「これは金の問題ではない」
「ギルドの矜持の問題だ」
「奴隷を扱う市場を、この地域で許すわけにはいかん」
声に強い意志が宿る。
「情報が漏れれば逃げられる。よって迅速に叩く」
「作戦決行は三日後」
「明日、詳細な会議を行う」
二人は踵を返す。
扉の前でダリアが言う。
「潰すよ」
短く、確実な言葉。
ギルドマスターは静かに頷いた。
「期待している」
扉が閉まる。
廊下を歩きながら、オルレアが横目で見る。
「怒ってるな」
「奴隷は嫌いだ」
「知ってる」
足音が響く。
温泉宿で鍛えた直した身体。
そして今度は、本物の闇。
戦いは、次の段階へ進む。
続く
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