第6章ー26 ワンナイト カーニバル
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
森の外れの小屋。
「縄は持ったか?」 「荷車は裏だ」 「急げ、急げ」
ならず者達が慌ただしく準備をしていた。
「ハンター連中がいるせいで予定が狂っちまった。さっさと掘り出して――」
その瞬間。
――ドォン!!
ドアが内側に吹き飛んだ。
木片が舞い、冷たい夜風が吹き込む。
「な、何だ!?」
煙の向こう。
月明かりを背に、二つの影。
鬼面と、狐面。
無言。
立っているだけなのに、空気が重い。
「ば、化け物か!?」
「武器だ!武器――」
最後まで言わせなかった。
鬼が一歩踏み込む。
床板が鳴る。
次の瞬間、男の腹に拳がめり込んだ。
「ぐへぇっ!?」
体がくの字に折れ、そのまま後方へ吹き飛ぶ。
狐が滑るように横へ回り込む。
短剣を抜こうとした腕を掴み、くるりと回転。
「ほら」
軽い声とは裏腹に、豪快な背負い投げ。
ドガン!
男が壁に叩きつけられる。
「う、撃て!」
銃を構えようとした瞬間。
鬼の蹴りが手首を弾き、銃が天井へ飛ぶ。
そのまま回し蹴り。
男はぐるりと一回転して床へ。
「素手!? こいつら素手だぞ!?」
「だからどうした」
低い声。
鬼の拳が、的確に顎を打ち抜く。
狐は椅子を蹴り上げ、それを踏み台にして空中からの踵落とし。
「はい、失神」
小屋の中は、あっという間に静まり返った。
呻き声すら続かない。
鬼と狐は、てきぱきと縄を取り出す。
「猿ぐつわ」 「はいよ」
布を噛ませ、縛り、転がす。
まるで作業。
そして――
部屋の隅で腰を抜かしている一人だけを残した。
「ひ、ひぃ……」
鬼がゆっくり近づく。
床板が鳴るたびに、男が後ずさる。
狐が反対側へ回り込む。
逃げ道、なし。
「何処に隠してある?」
鬼の低い声。
「い、言わないと……どうなる……?」
狐が小さく首を傾げる。
「試してみる?」
鬼が拳を鳴らす。
ゴキ、と嫌な音。
「い、言う! 言います!」
涙目で叫ぶ。
「地下闘技場だ! 石造りの椅子! 座るとこ外せるんだ! そこに隠してある!」
鬼と狐が視線を交わす。
「どの椅子だ」
「中央列、右から三番目! ほ、本当だ!」
沈黙。
鬼が一歩近づく。
男は白目を剥いた。
ばたり、と気絶。
狐が肩をすくめる。
「脅しただけだぞ?」
「気絶したなら手間が省ける」
鬼が縄で縛る。
小屋の中には、猿ぐつわ付きのならず者が整然と転がっている。
鬼が面の奥で、わずかに笑った。
「……制圧完了」
「お前、楽しんでただろ」
「否定はしない」
二人は外へ出る。
月が高い。
一夜限りの――
クラッシュ&ストライク復活公演。
観客は月と森だけ。
「地下闘技場、確認するか」
「ついでに回収だな」
鬼と狐は、軽やかに森を戻る。
湯気の向こうで眠る若手達はまだ知らない。
今夜、姐さんが本当に鬼だったことを。
2人は地下闘技場に戻った。
松明の灯りが石壁を揺らす。
「中央列、右から三番目……これだな」
鬼面のダリアが、石造りの椅子を指で叩く。
コン、と乾いた音。
「軽いな」
狐面のオルレアが縁を掴む。
「せーの」
ゴリ、と石をずらす。
中は空洞。
そして――
「……うわ」
金の腕輪、宝石の嵌った首飾り、古い意匠の指輪。
鈍く光る宝飾品が、山のように詰め込まれている。
「盗掘品か」
「遺跡から掘り出したか、どこかから運び込んだか」
鬼が一つ拾い上げる。
重い。
古いが、価値は高そうだ。
「どうする?」
狐が面越しに笑う。
鬼は少し考え――
ふ、と口角を上げた。
「いいことを思いついた」
数十分後。
小屋から、ずるずると引きずられていくならず者達。
「んぐっ!?」 「むーっ!」
猿ぐつわの抗議は無視。
「重いな」 「日頃のトレーニングの成果だ」
地下闘技場の中央。
古代の砂地の真ん中に、ならず者達をまとめて転がす。
鬼が板を取り出し、筆で何かを書く。
狐が首に縄を通し、立て札を掛けていく。
完成。
立て札には、堂々と書かれていた。
――
この地を荒らすものに天罰を加えた
宝は椅子の下にある
古き拳闘士より
――
鬼と狐は一歩下がる。
「完璧だな」
「完璧ね」
ならず者の一人が目を覚ます。
目の前には闘技場。
首には札。
そして鬼と狐。
「ひぃぃぃ!」
そのまま再び気絶。
「効きすぎたか?」
「そのようね」
二人は宝を元に戻し、石を閉じる。
月明かりの下、静かに去った。
翌朝。
「……何だこれは」
教官役のベテランハンターが地下へ降り、足を止める。
中央に縛られた男達。
首には立て札。
「……天罰?」
若手がざわつく。
「姐さん、何か知ってますか?」
「知らん」
ダリアは真顔。
オルレアは咳払い。
ベテランは額を押さえた。
「とりあえずギルドに報告だ」
ならず者達は、そのままギルドへ連行された。
取り調べが始まる。
「何をしていた」
「ど、盗掘だ……」
「宝飾品は?」
「闇市場に流すつもりだった……!」
「誰に襲われた」
ならず者達の顔色が一斉に変わる。
「鬼だ……!」
「狐もいた!」
「素手で殴られた! 化け物だ!」
「仮面だ! あいつら仮面を――!」
ギルド職員達は顔を見合わせる。
「鬼と狐?」
「最近この辺りでそんな報告は……」
記録係が首を傾げる。
温泉宿では。
若手達が朝の走り込みで悲鳴を上げていた。
「姐さん待って!」
「昨日より本数増えてません!?」
「気のせいだ」
息を弾ませて、赤毛の少女が目を輝かせて言った。
「聞きました!? 鬼と狐が出たって!」
「悪い奴をやっつけたらしいですよ!」
ダリアは咳払いを一つ。
「何だそれ?……いいから走れ」
「は、はい姐さん!」
湯気の向こうで、朝日が昇る。
地下闘技場は静かだ。
だが噂は広がるだろう。
この地を荒らす者に――
鬼と狐が出る、と。
そしてその仮面は、元の場所にひっそりと飾られていた。
まるでこの地を見張るように。
続く
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