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第4章ー⑱ 街と街を繋ぐ “道”

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


  翌日、いつものようにギルドへ顔を出したロゼッタは、

 少しだけ表情を引き締めた職員に「奥へ」と案内された。

 応接用の小部屋――しかし、ただの打ち合わせでは使われない場所だ。


 中にいたのは、見覚えのある幹部クラスの職員と、

 地図を広げている技術系の担当者だった。

 挨拶もそこそこに、本題が切り出される。


「以前、君たちが討伐した個体(プルータス)から回収された

 “ドリル系の素材”だが――あれを、ギルドとして正式に買い取りたい」


 ロゼッタは一瞬だけ目を瞬かせた。

 あの、回転式削岩アームの中核部。

 重く、硬く、扱いにくいが、確かに異様なまでの掘削力を持っていた。


「理由は、これだ」


 地図が指で叩かれる。

 現在使われている街道と、ジャンクタウンへの遠回りのルート。

 そして、その途中に、赤い線で描かれた“点線”。


「数日前、街道の補修調査をしていた土木班が、偶然“空洞反応”を拾った」


 話はそこから、丁寧に語られた。


 きっかけは、本当に偶然だったという。

 老朽化した街道の路肩が、最近やけに沈む。

 最初は地盤の問題だと思われていたが、

 測量を重ねるうちに、不自然な反響が返ってくる箇所が見つかった。


 掘ってみると、出てきたのはコンクリートと鋼材が幾重にも重なった、

 異様に堅牢な構造物。さらに掘り進めると、

 壁面に刻まれた旧文明文字と、規格化された照明用レール。


「……高速道路のトンネルだ。前大戦以前に使われていたものらしい」


 完全に埋没しているわけではなかった。

 内部の大半は崩落を免れており、ただ一部

 ――地殻変動と戦災が重なった区画だけが、巨大な落盤で塞がれている。


 担当者が静かに言葉を続ける。


「このトンネルが使えれば、

 現在半日以上かかるジャンクタウンへの移動が、1時間足らずで済む」


 その意味を、ロゼッタはすぐに理解した。


 ジャンクタウン。

 旧文明の残骸、機械、素材、部品、記録――

 あの街そのものが、巨大な資源の塊だ。


「多少、無理をしてでも――いや、多少どころじゃないな」


 幹部が苦笑しながら続ける。


「このトンネルは、開通させる価値がある。

 物流も、人の流れも、討伐効率も、すべてが変わる」


 だが問題は、その“塞がれた区画”だった。


 通常の削岩機では歯が立たない。

 爆薬を使えば二次崩落の危険が高すぎる。

 内部構造が複雑で、下手に壊せばトンネル全体が死ぬ。


「そこで、君たちが持ち帰った、あのドリルだ」


 ロゼッタの視線が、地図から幹部へ戻る。


「あれほど硬質で、しかも回転による振動で

 “削る”のではなく“剥がす”ような素材は、そうそう手に入らない」


 つまり――

 ギルドは、本気で道を切り拓こうとしている。


 ロゼッタは、静かに息を吐いた。

 自分たちが倒した機械獣の一部が、

 ただの戦利品ではなく、街と街を繋ぐ“道”になる。


 それは、剣闘士だった頃には、決して味わえなかった感覚だった。


「……わかりました」


 ロゼッタは、はっきりと頷く。


「素材は、売却します。役に立つなら、それでいいです」


 幹部は、ほっとしたように微笑んだ。


「助かる。もちろん、相応の報酬は用意する」


 部屋を出るとき、ロゼッタは一瞬だけ立ち止まり、振り返った。


 道を作る。

 未来の移動を変える。

 人の流れを変える。


 戦うだけが、ハンターじゃない。

 その事実を、また一つ、胸に刻みながら

 ロゼッタは、仲間たちの待つホールへと戻っていった。


 話が終わり、ロゼッタが応接室を出た直後のことだった。

 廊下を進む足音がまだ遠ざかりきらないうちに、

 先ほどの幹部が職員へ短く指示を飛ばす。


「――例の件、正式に回そう。彼女たちでいく」


 その声は、決断をすでに終えた者のものだった。


     ◆


 その日のうちに、ギルドの掲示板とは別ルートで、

 ロゼッタたち四人へ“直接依頼”が届いた。

 封筒ではなく、ギルド印の入った薄い金属プレート。

 中を開くと、簡潔だが重みのある文言が並んでいる。


――旧文明トンネル跡・第一次調査

――目的:構造確認および周辺脅威の排除

――内容:調査班同行・護衛任務

――備考:過去実績を考慮し、()()()()とする


 ミレイアが小さく息を呑む。


「……指名、って書いてある」


 リンが肩をすくめつつも、目は真剣だった。


「派手な討伐じゃないけど、こういうのの方が失敗できないやつね」


 セリカは地図を覗き込み、眉をひそめる。


「トンネル跡……閉所、視界悪し、旧文明構造物。

 機械系が出るなら、嫌な条件そろってる」


 ロゼッタは、静かに頷いた。


「だからこそ、私たちなんだと思う」


 近接、罠、連携、撤退判断。

 遺跡型の依頼を選び続けてきた自分たちの“積み重ね”が、ここで評価された。


     ◆


 出発前のブリーフィングルーム。

 調査班は三名、いずれも技術職寄りで戦闘能力は最低限。

 その隣に、見慣れない女性ハンターが立っていた。


 年齢は二十代後半から三十前半。

 長い髪を一つに束ね、軽装だが無駄のない装備。

 銃は携行しているが、主武装は索敵用のセンサーと小型ドローン。


「臨時で同行することになった、ハンターのエレナよ」


 低く落ち着いた声。

 視線の動きが鋭く、室内を一度なぞっただけで配置を把握しているのがわかる。


「専門は索敵と状況把握。

 閉所、地下、旧文明遺構――そういう場所で生き残ってきた」


 ミレイアが少し安心したように息を吐く。


「心強いですね……」


 エレナは口元だけで、わずかに笑った。


「あなたたちの噂は聞いてるわ。

 ――“撤退できる新人たち”。いい判断をする」


 リンが一瞬だけ目を丸くし、すぐにニヤリとする。


「褒め言葉ってことでいい?」


「もちろん」


 エレナは即答した。


「索敵が得意でも、守ってくれる人がいなければ意味がない。

 今回は、私が“目”をやる。

 あなたたちは “手足”と“刃” をやって」


 ロゼッタは、その言葉に静かに頷いた。

 役割分担が、最初からはっきりしている。

 経験を積んだハンターのやり方だ。


「よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げると、エレナは一瞬だけ目を細めた。


「……礼儀正しいわね。

 じゃあ、無事に帰りましょう。調査も護衛も “生還” が最優先」


 こうして、

 街とジャンクタウンを繋ぐ“道”の未来を左右する調査が始まる。


 ロゼッタたちはまだ知らない。

 このトンネル跡が、単なる通路では終わらないことを――

 そして、試されるのは戦闘力ではなく “判断の連鎖” であることを。



 続く

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