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第4章ー⑲ 旧文明トンネル跡調査

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


 旧文明トンネル跡の入口は、崩落した岩と瓦礫に半ば埋もれながらも、

 その奥に“道”としての輪郭をはっきり残していた。

 調査班が慎重に瓦礫を避けつつ、簡易照明を設置する。


 エンジン音が低く反響し、先頭の調査車両がゆっくりと内部へ滑り込んだ。


     ◆


 ――思ったより、ずっと綺麗だ。


 ロゼッタは、思わず視線を巡らせた。

 天井は高く、壁面は滑らかなコンクリートと金属補強材で構成されている。

 崩落の痕跡は入口付近に集中しており、内部は驚くほど原形を保っていた。


「これ……大型トラックでも余裕で通れるわね」


 リンが車両幅と壁の距離を見て、素直に感想を漏らす。


「輸送用として設計されてたんでしょうね」


 調査班の一人が、端末を操作しながら続ける。


「天井高、路幅、路面強度……

 当時の規格なら、軍用輸送車列を想定していてもおかしくない」


 セリカが、軽く床を踏み鳴らした。


「路面、まだ生きてる。

 補修すれば、相当な重量にも耐えられるよ」


 その言葉に、ロゼッタは喉の奥が熱くなるのを感じた。


 ――これが開通したら。


 街とジャンクタウンを結ぶ距離が、一気に縮まる。

 素材、技術、人の流れ。

 ギルドが多少無理をしてでも貫通させたい理由が、肌でわかった。


                    ◆


 しばらく進んだところで、エレナが手を上げた。


「……待って」


 即座に、全員が足を止める。

 無駄な動きは一切ない。


 エレナは小型ドローンを起動し、低空で前方へ滑らせた。

 静かな羽音が、広いトンネルに吸い込まれていく。


「内部の環境反応……温度安定、気流あり。

 それから――」


 一拍置いて、声を低くする。


「微弱だけど、周期的な電磁反応がある」


 ミレイアが、緊張した面持ちで聞き返す。


「……それって」


「ええ」


 エレナは頷いた。


「自律稼働の可能性。

 旧文明の管理用ロボット、もしくは保守ユニット」


 リンが、銃を肩に担ぎ直す。


「まだ動いてる、ってこと?」


「完全稼働じゃなくても、待機状態の可能性は高いわ」


 セリカが、低く笑った。


「旧文明あるあるだね。

 “使われなくなっても、仕事だけは続けてる”」


 ロゼッタは、無意識に右腕の義手を握り込んだ。


 管理用ロボット。

 戦闘用ではないが、旧文明の“基準”で作られている以上、油断はできない。


「途中までは、車両で行けそうですね」


 調査班の一人が、期待と不安の入り混じった声で言う。


 エレナは、はっきりと言った。


「ええ。

 ただし――“途中まで”よ」


 ドローンの映像が、壁面に投影される。

 前方の路面に、微妙な段差と、何かが擦れたような痕跡。


「この先、管理区画に近い。

 反応が強くなる」


 ロゼッタは、仲間たちを見回した。


 視線が交わり、短い頷きが返ってくる。

 準備はできている。


「車両はここまで」


 ロゼッタの声は、落ち着いていた。


「ここから先は、徒歩で行きましょう。

 起こさなくていいものは、起こさない」


 エレナが、わずかに口角を上げる。


「いい判断。

 ……やっぱり、噂通りね」


 こうして一行は、

 静かに眠り続けていた“道の番人”の領域へと、足を踏み入れていった。


                    ◆


  トンネルをさらに進んだ先で、空間は不意に大きく開けた。

 天井は一段と高くなり、左右には崩れかけた壁とガラスの名残、

 床には区画線のような塗装が薄く残り、かつてここが単なる通路ではなく

「滞留」を前提とした場所であったことを雄弁に物語っている。


 ――管理事務所兼、簡易サービスエリア跡。


 壁際には操作卓の残骸、天井からは折れた配線が垂れ下がり

 奥には点検用シャッターの影。

 それでも空間全体は異様なほど整っており、

 埃が積もりながらも、致命的な崩落や歪みは見当たらなかった。


「……ここ、かなり重要な拠点だったみたいね」


 リンが小さく呟く。

 ロゼッタも同意するように視線を巡らせるが、その直後――


 ――ギィ……ン。


 金属が擦れる低い作動音が、広い空間に反響した。


 奥の壁面がわずかにスライドし、そこから“それ”が姿を現す。

 人型に近いが、角張ったフレームと無機質な関節、

 胸部には旧文明規格と思しき管理用識別灯が淡く点灯している。


 管理ロボット。

 しかも、かなり保存状態がいい。


 ロボットは数歩前進すると、ぴたりと動きを止め、

 光学センサーを一行に向けた。


『――識別要求。

 本区域はグランドハイウェイ・第514管理拠点。

 携行武装の種類、用途、所属を申告せよ』


 その瞬間、空気が張り詰める。

 誰もが武器に手をかけかけた、その“刹那”。


 ロゼッタが、一歩前に出た。


 背筋を伸ばし、顎をわずかに引き、声を低く落とす。

 それは普段の柔らかな彼女とはまるで違う、鋼のように整えられた響きだった。


「――全員武器を下ろせ。

 こちらは旧文明調査権限を持つ部隊だ」


 軍隊口調。

 感情を削ぎ落とし、命令だけを明確に伝える声。


 その言葉を発した瞬間、ロゼッタの脳裏を、かつての記憶がよぎる。


 ――ベルベットの声。


 「迷ったら “相手が信じたい立場” を与えろ。

  嘘でもいい、筋が通っていれば相手は納得する」


 仲間たちが一瞬驚いた顔をするが、ロゼッタの横顔を見て、すぐに従う。

 武器が納められ、銃が背中に回され、即応姿勢が“解かれた形”になる。


 ロボットのセンサーが、即座に反応する。


『……武装解除を確認』


 ロゼッタは、静かに息を吸い、次の言葉を選ぶ。


 ほんの一瞬の沈黙。

 だが、その一瞬が、異様に長く感じられた。


「我々は軍の調査部隊だ。

 長期未使用インフラの再評価と、安全確認を目的としている。

 非戦闘任務につき、不要な衝突は避けたい

 あなたの管理権限下にある情報と、施設状態の確認を求める」


 声音は落ち着いていた。


 ロボットの胸部ユニットが、淡く明滅する。


『……軍調査部隊。

 照合中』


 内部処理音が、低く唸るように響く。


 エレナは、その様子を一歩引いた位置から眺めながら、

 内心で静かに感心していた。


 ――とっさに、そこを突くか。


 軍。

 旧文明施設に対して、管理ロジック上 

 “最上位に近い優先権” を持つ存在。

 現代では形骸化していても、

 ”ロボット側の判断基準” には、まだ強く刻まれている。


 そして何より――

 武器を下ろさせた判断。


 これは勇気ではない。

 場を読む力だ。


『……照合中。

 軍事調査部隊……該当記録、部分一致。

 警戒レベルを下方修正』


 金属の腕が、わずかに下がった。


『質問を更新する。

 携行武装は、自己防衛用途と認識してよいか』


「肯定する」


 即答。

 ロゼッタの声には、揺らぎがない。


 数秒の沈黙の後、ロボットは一歩下がり、通路を示すように体をずらした。


『了解。

 本区画の通行を許可する。

 管理機能は最低限稼働中。

 異常があれば()()を求める』


 ロボットは、ゆっくりと一歩退いた。


『限定的協力を許可する。

 本区画はグランドハイウェイ・第514管理拠点。

 現在、部分稼働状態』


 空気が、ようやく緩む。


 ロゼッタは、深く頭を下げた。


「協力に感謝する」


 その横顔を見ながら、エレナは小さく微笑んだ。


 ――面白い娘。


 戦えるだけじゃない。

 判断し、嘘を選び、場を生かす。


 ハンターとしても、

 それ以上の“何か”としても――

 目が離せない、と。



 続く

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