第4章ー⑯ 住まい探し
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
翌日。
装備も武器も身に着けず
四人は普段よりも軽い足取りでギルド本館へ向かった。
戦闘続きの日々の中で、今日は珍しく “生き延びるための準備” ではなく、
“生きるための準備” をする日だった。
目的は――ロゼッタの住まい探し。
「ギルド紹介の物件なら、変なのは掴まされないしな」
セリカが周囲を見回しながら言うと、
掲示板の前で資料を眺めていたリンが静かに頷いた。
「変な大家とか、裏に変な連中が絡んでる可能性も低いしね。
ハンター狙いの詐欺も多いから」
ギルド職員に用件を伝え、応接用の卓へ通されると、簡単な条件確認が始まった。
その流れで、自然と話題は“何を重視するか”に移っていく。
「まず、本人の希望から伺いましょうか」
促され、ロゼッタは一瞬だけ考え、言葉を選ぶように口を開いた。
「……静かで、人通りが少なめな場所。
あとは、体の整備ができる程度の広さがあれば充分です」
「質素すぎ!」
即座にセリカが突っ込む。
「最低限すぎるわね」
ミレイアも苦笑しつつ続ける。
「でも、ロゼッタらしいわ」
「無駄を削る癖が、戦い以外でも抜けてない」
「じゃあ次、私」
リンが手を挙げる。
「立地重視。ギルドから遠すぎないことと、
夜でも人の目がある通りに面してる場所。裏路地は論外」
一瞬だけ視線を伏せてから、付け加える。
「奇襲されにくいって意味でもね」
ロゼッタは小さく息を呑み、何も言わずに頷いた。
「私は建物そのもの」
ミレイアが淡々と続ける。
「壁が薄い木造は避けたい。できれば石造りか、補強済みの建物。
最近は機械獣絡みの被害も増えてるし、流れ弾や崩落に耐えられる構造がいい」
「家に求める条件が戦場基準なのよ」
セリカが苦笑する。
「生き残る前提なら当然でしょう」
「で、最後は私だな」
セリカは親指で自分を指した。
「生活環境! ちゃんとした寝床、風呂、まともな調理場!
疲労は休まなきゃ抜けないし、回復しない体は次の戦闘で死ぬ!」
「珍しく真面目」
リンが肩を揺らす。
「いつも真面目だっての」
職員は四人のやり取りを聞きながら、何度も頷いた。
「なるほど……静かで安全、立地が良く、
構造がしっかりしていて、生活設備も整っている」
「要求としては高めですが……」
「今のロゼッタなら、妥当です」
セリカが即座に言い切る。
その言葉に、ロゼッタは一瞬だけ言葉を失った。
自分が“守られる価値のある存在”として扱われることに、まだ慣れていない。
「……お願いします」
小さく、それでもはっきりと告げる。
職員は微笑み、いくつかの資料を卓に並べた。
「でしたら、こちらの区画が条件に近い。
元ハンター向けに整備された建物で、少し広めですが――」
四人が身を乗り出し、地図と間取り図を覗き込む。
そこに描かれているのは、ただの“部屋”ではない。
傷を癒やし、装備を整え、思考を切り替えるための場所。
戦場から戻ったロゼッタが、確かに“帰ってこられる”場所。
ギルド職員に案内され、四人は石畳の通りを外れた先へ向かった。
喧騒から一歩距離を置いた区画で、
武具屋や酒場のざわめきは遠く、足音と風の音だけが残る。
「……静か」
ロゼッタがぽつりと呟く。
「ギルド紹介物件らしい立地だね」
リンが周囲を見回す。
「目立たないけど、完全な裏路地でもない。
夜間巡回も通るし、悪くないと思うよ」
建物は低層の石造りで、外壁には補修痕があり、
過去に何度も手を入れられてきたことがわかる。
派手さはないが、使われ続けてきた“堅実さ”が滲んでいた。
中に入ると、空気はひんやりとしているが湿気は少なく、床鳴りもない。
簡素な居間、寝室、作業用に使えそうな小部屋。
調理場は狭いが、手入れは行き届いていた。
「……問題なし」
ミレイアが壁を軽く叩き、天井を見上げる。
「構造も悪くない。補強跡もきちんとしてる」
「風呂がある!」
セリカが奥から声を上げる。
「ちゃんとしたやつ! 湯船つき!」
「評価基準そこ?」
リンが笑いながらも、表情は柔らい。
ロゼッタは一人、居間の窓辺に立っていた。
窓を開けると、低い屋根の向こうに街の端が見える。
朝になれば光が入り、夜には静かに暗くなる、戦場から最も遠い方向の景色。
――悪くない。
そう思えたことに、自分自身で少し驚く。
「ロゼッタ、どう?」
セリカが近づいてくる。
「……落ち着く」
短く答えると、皆が自然と頷いた。
外に出ると、通りの向かいにやや大きめの建物が見えた。
門と柵があり、建物前にはクランの紋章が掲げられている。
「あれ、クランハウスだ」
リンが言う。
「小規模だけど、ちゃんとしてるね」
ミレイアが視線を巡らせる。
ロゼッタも足を止めた。
壁の厚さ、出入口の配置、見張りに使えそうな位置。
無意識のうちに、防御の観点で見てしまう自分に気づき、少しだけ苦笑する。
「……いいな」
セリカが素直に言った。
「みんなで住めたら、ああいうところ」
「まだ先だね」
ミレイアが即座に現実を差し出す。
「一応、参考までに家賃を聞いてみましょうか」
職員が言い、控えめに額を告げた。
「……は?」
セリカが固まる。
「高っ!」
次の瞬間、声が裏返った。
ロゼッタは数字を聞き、静かに息を吐いた。
今の稼ぎでは、到底届かない。
無理をすれば払えなくはないが、それは“生き延びる”選択ではない。
「今は無理だね」
ミレイアが淡々とまとめる。
「でも」
リンが言葉を継ぐ。
「目標にはちょうどいいよ」
ロゼッタはもう一度、クランハウスを見上げた。
戦うための拠点ではなく、帰るための場所。
誰かと肩を並べて暮らす場所。
「……いつか」
小さく呟く。
「いつか、だな!」
セリカが笑い、背中を叩いた。
高すぎる現実を前にして、気持ちは沈まない。
むしろ、進む方向が一つ増えただけだった。
四人は顔を見合わせ、自然と同じ思いを共有する。
――強くなって、稼いで、生き延びて。
その先で、ああいう場所を“当たり前の居場所”にする。
そのための一歩として、ロゼッタはこの静かな部屋を選んだ。
続く
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